チャンギ空港から福岡まで、旅人とわたしの交差点

 

Posted on 20 Jun 2025 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh

いま思い出しても、奇跡としか思えません。平和の伝道師でもあるAbrarさん、本当にありがとうございます。



「Wildlens By Abrar」ことAbrar Hassanさんがパキスタンを出発し、最終目的地である日本を目指す旅を始めてほどなく、わたしは彼がコンスタントにアップする動画を心待ちにするようになった。



 

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動画のタイミングと実際の現在地が一致していないことは承知していたので、Instagramのアカウントもフォローするようになった。

そんなある日、昨年10月末のことだった。
Abrarさんがシンガポール・チャンギ空港に向かうという「ストーリーズ」を見かけた。
なんと、その日は、わたしも日本への一時帰国の途上でチャンギ空港を、しかも乗り継ぎのタイミング上かなり長時間にわたり利用する予定の日。
「もしかしたら会えるかも」
そう淡い期待をして、わたしは思わずメッセージを送った。

もちろん、人気者の彼から返信が来るわけがない。
だからチャンギ空港では、目を皿のようにして彼の姿を探したものだ。
そして後日アップされた彼のストーリーズには、どなたかファンの方と談笑する様子が映っており、なぜだかとてもうれしかった。

あのときの自分には、半年以上先にこんな展開が待っているなんて、まるで想像もできなかった。

その後、たぶんAbrarさんにとって少し珍しい日本人フォロワーであること、そしてインド在住という背景もあるのか、運良くときおりメッセージの返信をいただけるようになった。
もちろん、旅人であり、世界中にファンを持つ彼が、わたしのような一ファンに個人的なやり取りをしてくれるはずもない。
けれど、たまに返してくれる短いメッセージに、どれほど励まされてきたか分からない。

その後、彼は諸事情によりまっすぐ日本へは向かわず、一度タイ・バンコクに渡り、昨年12月に愛車「Rangeeli」を日本へ輸出。
旅は一時中断された。

4月中旬、ついに彼の「ストーリーズ」に日本行きの航空券がアップされた。
わたしもその下旬から一時帰国を予定していたため、福岡に立ち寄る予定があるかどうか、ダメ元でメッセージを送ってみた。
するとなんと、初めて明確な返信があり、彼が本当に福岡を訪れる予定であることが分かった。

その後、いくつかのトラブルを乗り越え、ついに彼はバイクでの日本縦断をスタートした。

今月はじめ、大阪・道頓堀で開催されたファンミーティングに、偶然同じタイミングで大阪にいたわたしは、片言のドイツ語で勇気を出して話しかけた。

「もし福岡に、わたしが滞在しているタイミングでいらっしゃることがあれば、ぜひまたお目にかかりたい。できたらド田舎にある実家にいらっしゃいませんか」

Abrarさんは、あの見慣れた、力強くまっすぐな瞳をきらりと光らせて、うなずいてくださった。
でも、それはただのやさしさの表れだと思って、期待はしないことにした。

そのままわたしはタイへ飛び、そして現在、インドに戻る直前のタイミングで、わたしは福岡に帰ってきた。

実は、わたしたちがタイに滞在していたとき、Abrarさんは一瞬だけ福岡に立ち寄っていた。
しかしそのままフェリーで韓国へ渡られた。
「10日後には福岡に戻ってくる」との言葉を信じて、楽しみに待っていた。

そして一昨日の夕方、彼が「ストーリーズ」に、見慣れた博多駅のプラットフォームを映した動画を上げていた。
少し意外なタイミングだったが、すぐにメッセージを送ったところ、なんと実家から目と鼻の先にある隣町にいらっしゃるとのこと。
「万が一、泊まる場所に困っていてはいけない」と思い(実際にはご友人宅に滞在されていたとのこと)、WhatsApp番号を伝えてその晩は眠りについた。

翌朝、目覚めるとAbrarさんから「実家の住所を教えてほしい」とのメッセージが届いており、心臓が止まりそうになった。

午前11時ごろに到着予定とのことだったので、福岡市に住む、同じくAbrarさんの動画ファンであるパンジャーブ人の友人に「Abrarさん、今からうちに来るよ」と伝えると、「せっかくだからみんなで会いたい」との返事が返ってきた。
Abrarさんはパキスタン側のパンジャーブ人。
わたしは勝手に「日本でインド側のパンジャーブ人と会えたら、彼の動画的にも面白いんじゃないか」と思い、「うちを出たら博多で彼女も一緒にランチしませんか」と提案してみた。
もちろん、すぐに返事があるわけではない。
いま思えば、彼は「日本の一軒家」をぜひ見たかったんだろうと思う。

そして11時を過ぎた頃から30分ほど、国道沿いで待っていた。
でも彼は現れなかった。
ふと手元のスマートフォンを見ると、「暑い中、外で待たないでください。忘れ物があって博多に取りに戻っています」とAbrarさんからのメッセージが。

ならばますます博多駅で合流してランチして、それからうちに来ていただいて、あわよくば泊まっていただいたらいいのでは…そんな気持ちが募った。
ちょうどランチタイムだったので、友人の都合もつく。

そもそも彼がバイクで来るのか、電車で来るのかも分からなかった。
「ホテルを出たらすぐ連絡します」と言われたので、「15分ほど待って、それ以降は家を出ます」とメッセージを送り、実際はもっと長く待ってから出発した。

実家の最寄り駅に到着し、駐車場に車を停めてスマートフォンを確認すると——
そこには、20分も前に届いていたAbrarさんからのメッセージ。
「ご自宅前にいます」

一瞬、時が止まった。
わたしの頭の中に、ぐるぐるとさまざまな情景が一気に駆け巡る。
わたしたちは国道を通ってきたけれど、もしかしたら彼は県道を選んだのかもしれない。
ほんのわずかなルートの違いが、ほんの紙一重ですり抜けていったのだ。

焦りと動揺でクラクラしてきた。
そんなわたしのもとに、追い打ちをかけるように、さらにメッセージが届いた。
「今回は私のミスでご迷惑をおかけしました。このまま広島に向かいます。またいつか、どこかで会いましょう」

このまま終わらせるわけにはいかない。
震える指でメッセージを打ち、懸命に引き止めた。
「まだ間に合うなら、あなたのことを最寄り駅前で待っています」

そうして十数分後。
遠くから近づいてくるライダーを見つけたときは、全身の力が抜けた。

ともに動画を楽しんでいた母も彼との対面を楽しみにしていたので、いっそそのまま実家に突撃してもらってもよかったのかもしれない。
けれど、「わたしのヒーロー」である彼に、わけも分からず気まずい時間を過ごさせるなんて、どうしても想像できなかった。

最寄り駅には、腰を落ち着けて話せるようなカフェもなかったので、ほんの少しだけ、立ったまま言葉を交わした。
それだけの時間だったのに、わたしの中では、すでに何年も前から親しくしてきた旧友に会ったかのような、不思議な安堵があった。
毎日のように彼の動画を見ていたせいかもしれない。
けれど、目の前にいるのは、確かに現実のAbrarさんだった。

ただしほんの一瞬、彼のライダージャケットからふわりと漂った旅の「匂い」を、気づかれないように、でもしっかり胸いっぱいに吸い込んだ自分がいた。
その「匂い」には、たしかに彼が歩いてきた世界の時間が染み込んでいて、どうしても忘れたくなかった。

今回は英語でしっかり会話ができた。
旅してきた国々の話、次なる冒険が南北アメリカ大陸縦断であること、動画では語られない舞台裏のこと。
そしてパキスタン、インド、ドイツ、日本——それぞれの国の良さ、そしてちょっとだけ困ったところについても、率直な言葉で語り合うことができた。

夢みたいだった。
こんなふうに心の距離まで縮まった時間が、たった数十分だったなんて、いまでも信じられない。
けれど、わたしにとっては、何よりも鮮やかで、何よりも大切な時間になったのだった。

たった30分足らずの時間。
でも、大好きな「推し」を独り占めできたそのひとときは、生涯の宝物になった。
大ファンすぎて、ついメッセージが長文になりがちになることを避けるため、あえてドイツ語で連絡しているところもある。
それでも前回のように「サラーム・アレイクム」と言えなかったことだけが、深く心に残っている。

けれど、わたしの祈りはきっと届くと信じている。
Abrarさんがこれから向かう南北アメリカの旅も、どうか安全で、実り多きものでありますように。
彼の目を通して見える世界を、すてきな旅ブログとして届けてくれますように。

そしてこれは、あつかましい願いだと分かっているが、わたしがインドへ帰る直前に立ち寄る東京に数泊するタイミングで、もしAbrarさんもまた東京にいらっしゃったら、そこで2度目の再会ができたら最高なのにな~、な~んて妄想している。


 






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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