Abrar Hassanさんの旅が教えてくれた、歴史といまをつなぐ視点
Posted on 28 Apr 2025 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh
ビザンチン帝国の滅亡をたどりながら、いま私たちが直面する分断と衰退について考えていました。コンスタンティノープルの画像は「Istanbul Clues」より。
2024年にパキスタンを発ち、日本を目指したAbrar Hassanさんによるバイク旅動画は、かなりの月日を要しつつ、いよいよ最終目的地である日本編に入った。
動画のアップには少しタイムラグがあるため、日々の最新情報が更新されるInstagramもチェックしつつ、過去の旅動画も楽しみに視聴している。
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いまは2020年のコロナ禍まっただ中、居住先ドイツ・フランクフルトから故郷パキスタンを目指すという、無謀とも言える旅路を撮影した動画シリーズ「Germany to Pakistan」を視聴中だ。
たった5年前の映像ながら、Abrarさんが現在よりずっと若々しく、また今ではベテランとなった彼が、当時はちょっとしたオフロード走行にも四苦八苦していた初々しい様子を見つけるのも楽しみのひとつとなっている。
その旅の途中で立ち寄ったのが、かつてのコンスタンティノープル、つまり現在のイスタンブールである。
Abrarさんが紹介する数々の遺跡や歴史的背景を見ながら、私自身の関心も刺激され、コンスタンティノープルがなぜ、どのようにして陥落したのかを知りたくなり、塩野七生さん作『コンスタンティノープルの陥落』を手に取った。
小説であるため多少の脚色はあるにしても、コンスタンティノープルとビザンチン帝国が崩壊していく過程、そしてそれを取り巻く権力者たちや市民の姿が描かれる様子は、まるで2025年の世界を映し出しているかのようで、はっとさせられた。
まず、コンスタンティノープルは外からオスマン帝国の軍事的圧力を受ける一方で、内部では権力闘争や宗教分裂によりまとまることができなかった。
現代の日本や米国も、外圧(たとえば中国や新興国の台頭)に加え、内部の分断(政治的対立、社会格差)によって弱体化しつつある点で重なる。
次に、コンスタンティノープルの住民たちは、目前に迫る脅威に目を向けず、宗教論争など内部の問題に執着し、危機に対するリアリズムを欠いていた。
現代でも、日本や米国は、外の変化(新たな国際秩序の出現)よりも、内向きの議論(イデオロギー、文化戦争)に没頭しているように見える。
そして、過去の栄光への執着が判断を誤らせた点も無視できない。
コンスタンティノープルは、かつて「世界の中心」であった栄光を忘れられず、現実に即した変革を拒み続けた。
日本や米国もまた、かつての経済的・軍事的超大国としてのイメージに縛られ、現代の課題に対応しきれていないように思える。
イスタンブールの遺跡を巡るAbrarさん自身は、ドイツ国籍を取得していることもあり、比較的自由に世界を旅することができている。
しかし、その出身国パキスタンも、かつての同胞であるインドとの間に続く不安定な緊張関係に長年さらされている。
そんなAbrarさんを取り巻く複雑な状況をたどりながら、かつて世界の中心だったこの都市がなぜ滅びざるを得なかったのかを、深く考えずにはいられなかった。
塩野七生さんの没入感ある小説『コンスタンティノープルの陥落』には、外敵の脅威だけでなく、内部の分裂、危機感の欠如、変革を恐れた人々の姿が鮮やかに描かれている。
特に心に残ったのは、ビザンチン帝国が宗教的議論に過剰にこだわり、国家存続の危機にあっても神学論争や正統性を巡る争いにエネルギーを費やし、現実的な改革や防衛を後回しにしてしまった点だ。
それはまるで、インドとパキスタンの間に続く宗教を巡る対立を見るかのようだった。
宗教は人を支える力にもなるが、国家運営や国際関係の現実に対して、時に冷静な対応を妨げることもある。
ビザンチン帝国の最期は、「正しさ」を主張し合うことと、「生き延びる」ことの違いを痛烈に教えているように思う。
そして、いまの世界にもその教訓は響いているのかもしれない。
以上、にわかの地中海史学習者による覚え書きだった。
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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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