「ボクはInfosysを継ぎません」から20年、ムルティ家のその後
Posted on 24 Jul 2026 21:00 in アーカイブ特集 by Yoko Deshmukh
このころぐらいのものとみられる写真はDNAから。一方の近影を見たら、お父ちゃんそっくりです。
本日からちょうど20年前の2006年7月24日、ASKSiddhiでは、インフォシス(Infosys Technologies)の創業者、ナラヤナ・ムルティ(Narayana Murthy)氏と、当時22歳だった長男ロハン(Rohan)氏についての記事を掲載した。
ボクはInfosysを継ぎません、ムルティ Jr. 2006.7.24(月)
当時、翌8月に60歳を迎え、インフォシスを退職する予定だったムルティ氏は、ハーバード大学で博士号(PhD)取得を目指しながら、マイクロソフト(Microsoft)でインターン中だったロハン氏が、インフォシスに入り、自身の後を継ぐ可能性について、はっきりと否定していた。
「彼が何をしたいと思っても、我々(ムルティ夫妻)は励ましていきたいし、サポートしていきたいと思う」
あれから20年。
ロハン氏は、父親からインフォシスの経営を引き継ぐ道には進まなかった。
コーネル大学でコンピューター科学を学び、ハーバード大学で同分野の博士号を取得。
その後、マサチューセッツ工科大学(MIT)でポスドク研究員を務めるなど、まずコンピューター科学者として自身の道を歩んだ。
ただし、父子が一度だけインフォシスで一緒に仕事をした時期がある。
2013年、業績低迷に直面していたインフォシスにナラヤナ・ムルティ氏がExecutive Chairmanとして復帰すると、ロハン氏も父親のExecutive Assistantとして同社に加わった。
しかし、これは後継者としての入社ではなかった。
ナラヤナ・ムルティ氏は、ロハン氏が経営上のリーダーシップを担うものではなく、自身の仕事を補佐する役割であることを明確にしていた。
翌2014年には父子ともにインフォシスを離れ、ロハン氏が同社の経営を引き継ぐことはなかった。
同年、ロハン氏はテクノロジー企業「Soroco」を創業した。
また、ロハン氏はITとは全く異なる分野にも大きな足跡を残している。
ハーバード大学出版局への520万米ドルの寄付をもとに、インドの古典文学を英訳して世界へ紹介する「Murty Classical Library of India」を創設した。
約2000年にわたるインドの文学を、原語と英訳で後世へ伝えていく壮大なプロジェクトだ。
つまり、20年前に22歳だった「ムルティ Jr.」は、父親が築いた会社をそのまま受け継ぐのではなく、コンピューター科学者、起業家、そしてインドの古典文化を後世へ残すプロジェクトの創設者として、自身の道を歩んできた。
一方、2006年の記事には、ムルティ氏の長女でロハン氏の姉にあたるアクシャタ(Akshata)氏についても、「スタンフォード大学でMBAの学位を取得した」と記している。
そのアクシャタ氏が後に歩むことになった人生も、当時は想像できなかったものだろう。
スタンフォード大学でリシ・スナク(Rishi Sunak)氏と出会い、2009年に結婚。
2022年10月、スナク氏が英国首相に就任したことで、アクシャタ氏は英国首相夫人となった。
そして、もうひとり、ムルティ氏の妻スダ・ムルティ(Sudha Murty)氏もまた、この20年間で存在感をさらに高めていった。
エンジニア、作家、教育者、慈善活動家として活動し、Infosys Foundationでも長年にわたって中心的な役割を担ってきたスダ氏は、2024年3月、インド大統領によって上院(Rajya Sabha)議員に指名された。
ここには、20年前の記事との面白い巡り合わせがある。
2006年当時、インフォシスを退職した後の政界進出を周囲から期待されながら、「私には向いていない」と、その可能性を否定していたのはナラヤナ・ムルティ氏だった。
それから18年後、ムルティ家から実際に国会議員になったのは、妻のスダ氏だった。
2006年の記事を読み返すと、何より印象に残るのは、巨大企業を一代で築いた父親が、息子にその会社を継がせようとしていなかったことだ。
「彼は私より賢いし、きっと何かやりたいことが既に決まっているのだろう」、そして「彼が何をしたいと思っても、我々は励ましていきたいし、サポートしていきたい」と語っていたムルティ氏。
20年後から振り返れば、その言葉はなかなか興味深い。

ASKSiddhiは、Noteでも記事をアップしています。
今後メンバーシップを利用した企画なども考えていますので、
よろしければフォローしてみてください。
|
About the author
|
|
|
Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
|
User Comments