初めてのインド、初めてのボリウッド映画『Dil Chahta Hai』から25年

 

Posted on 05 Sep 2026 21:00 in エンターテインメント by Yoko Deshmukh

あのときのわたし、えらかったな。



『Dil Chahta Hai』が公開から25周年を迎えたという記事を、「The Hindu」に見つけた。

‘Dil Chahta Hai’ at 25: How Farhan Akhtar’s breezy style created a new Bollywood coolth

2001年に公開された『Dil Chahta Hai』は、わたしにとっても少し特別なボリウッド映画である。
初めてインドへ渡航した際、搭乗したエア・インディア(Air India)の機内上映で観た作品だったからだ。

当時はインドのことも、ボリウッド映画のことも、ほとんど何も知らなかった。
そんな中で観た、都会的な若者たちがゴアを旅し、恋愛し、友情に悩むこの映画の雰囲気は強く印象に残った。

『Dil Chahta Hai』の主人公は、大学を卒業したばかりの親友、Akash、Siddharth、Sameerの3人である。
きらびやかなナイトライフを楽しみ、のんびりした午後を一緒に過ごし、思いつくまま車でゴアへ向かう。

それまでのボリウッド映画に多かった、自己犠牲や兄弟愛を強く押し出した男性同士の友情とは異なり、世紀の変わり目を生きる都市部の若者たちの日常や価値観を、軽やかに描いた作品だった。

ただし、物語は単純な「男3人の友情物語」ではない。
むしろ、性格のまったく異なる3人が、それぞれ異なる形の恋愛を経験し、それによって友情まで揺さぶられていく物語である。

Akashを演じるのはアーミール・カーン(Aamir Khan)。
陽気でいたずら好きだが、恋愛そのものを信じておらず、女性との関係も長続きしない。
そんなAkashが出会うのが、プリーティ・ズィンタ(Preity Zinta)演じるShaliniである。

最初に出会ったときには軽い気持ちで彼女に声をかけるが、ShaliniにはRohitという婚約者がいる。
その後、Akashは家業のためオーストラリアのシドニーへ渡り、現地で偶然Shaliniと再会する。

ともに時間を過ごすうちに、これまで「恋愛なんて信じない」と考えていたAkash自身が、初めて本気で人を愛していることに気付いていく。

一方、サイフ・アリー・カーン(Saif Ali Khan)演じるSameerは、Akashとは正反対で、すぐに「恋に落ちた」と思い込んでしまうタイプだ。
両親から結婚相手として紹介されたショナリ・クルカルニ(Sonali Kulkarni)演じるPoojaに一目でひかれるが、Poojaにはすでに恋人がいる。

恋愛に振り回されながらも、Sameerは次第に、自分が本当に求めている関係とは何なのかを知っていく。

そして、3人の中で最も繊細で思慮深いSiddharth、通称Sidを演じるのがアクシェイ・カンナ(Akshaye Khanna)。
画家であるSidが心を寄せるのは、近所に住むディンプル・カパディア(Dimple Kapadia)演じるTara Jaiswalである。

TaraはSidよりかなり年上の離婚経験のある女性で、娘とも離れて暮らし、アルコールに依存する問題を抱えている。
SidはTaraの孤独や傷を理解し、やがて彼女を深く愛するようになる。

しかし、ある出来事をきっかけに、それまで固く結ばれていた3人の友情に大きな亀裂が入る。
そしてAkashはシドニーへ、Sidも別の場所へと向かい、3人はそれぞれの人生を歩み始める。

つまり『Dil Chahta Hai』では、AkashとShalini、SameerとPooja、SidとTaraという3組の男女の関係が並行して描かれている。
しかし、3つとも同じような「恋愛成就」の物語ではないところが、この作品の面白さでもある。

恋愛を信じなかったAkashは恋を知り、恋に恋していたSameerは関係を築くことを学ぶ。
そしてSidは、社会的には理解されにくく、しかも思い通りにはならない愛に向き合う。

やがてTaraは重い肝臓の病気で入院する。
それをきっかけに、長く距離を置いていたAkash、Sameer、Sidの3人も再び顔を合わせることになる。

こうした物語を支えていたのが、『Dil Chahta Hai』独特の映像とスタイルだった。

「The Hindu」の記事では、舞台、ヘアスタイル、衣装などを担当した制作陣が、当時一般的だった映画的な虚飾をできるだけ排し、登場人物を実際に都会に暮らしていそうな若者として見せることに力を入れていたことが紹介されている。

おそらく最も話題を呼んだのは、Akashをいたずらっぽさをにじませながら演じたアーミール・カーンのルックだった。

それまで恋愛ドラマで見せていた甘い青年というスクリーン上のイメージは、シャープに整えられた眉、頬まで伸びた長めのもみあげ、そしてひとクセある印象を与える顎のゴーティー*によって、見事に塗り替えられた。
このゴーティーは、ヘアカットの際にアーミール自身が提案したものだったという。

衣装も、それまでの映画の「スターらしい服装」とは少し違った。
3人がゴアへ旅するときには、リネンのドローストリングパンツ、ゆったりしたチュニックシャツ、カラフルなボトムスなどを身につける。

『Dil Chahta Hai』の映像は、登場人物の感情の微妙なニュアンスを引き出すために使われている。
その映像表現は25年を経た現在も、新しい世代の観客がそれぞれの意味を見いだせるものになっている。

そして、わたしにとってこの映画を思い出すとき、やはり最初に浮かんでくるのは独特の挿入歌である。
突然、現実とは少し違う世界に入り込んだかのように歌と踊りが始まる。

初めてインドへ向かうエア・インディアの機内で、初めて観たボリウッド映画。
そのころは、それが後に「新しい時代のボリウッド」を代表する作品のひとつとして語られる映画だとは、もちろん知らなかったので、「インド映画って、突然ミュージカルのように歌い踊りだすっていうのは本当なんだな」との感想を抱いたに過ぎなかった。

25年が過ぎたいま改めて振り返ると、映画の中で描かれた若者たちだけでなく、あの機内で初めてインドへ向かっていた自分自身のことまで思い出される。
それからのインドでの生活は、今に至るまで想像を絶することの連続であり、そうした日々をもありありと鮮やかによみがえらせてくれるという意味でも、特別な作品だ。
ひさしぶりに、また視聴してみたくなった。
 


*ゴーティー(goatee): 主に顎の部分にだけ残すひげのスタイル。口ひげと組み合わせる場合もある。
 

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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