キッチンセットより戦闘機を: パンジャーブ州の教科書が問い直すジェンダー・バイアス

 

Posted on 07 Sep 2026 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

いわゆる「西洋的な価値観」では違和感を抱く部分もあるけれど、それでも子どもや教師への働きかけとして大きなインパクトを生むと思います。



「The Indian Express」紙面版で、ジェンダー・バイアスを正面から取り上げるパンジャーブ州の教科書についての記事「Fighter jet as gift, Razia Sultan story: On gender bias, Punjab textbooks turn new page」を見つけた。
その内容は、わたしが考えるフェミニズムの標準からは大きな距離を感じるものの、インド全般、特に農村部や地方においては、最善の努力に見える。

ーーー

シダク(Sidhak)が欲しがっているのは、ままごと用のキッチンセットだ。
友達はみんな持っている。

ところが祖父は、代わりに共和国記念日のパレードを見るよう勧める。
しぶしぶパレードを見ていたシダクは、女性の戦闘機パイロットが国旗に敬礼する姿を目にする。

「これはどれくらい大きいの? わたしも飛ばせる?」
祖父の思惑どおり、シダクはそう尋ねる。
そしてキッチンセットのことなどすっかり忘れ、代わりに小さな戦闘機の模型を「プレゼント」としてもらう。

「A Gift for Sidhak(シダクへの贈り物)」と題されたこの物語は、パンジャーブ(Punjab)州立学校の7年生のカリキュラムに採用されており、ジェンダーに関する固定観念を打ち破り、ジェンダー・ロールを再定義しようとする州政府の取り組みの一環である。

パンジャーブ州教育局(Punjab Education Department)が2021年、NGOのBreakthroughとAbdul Latif Jameel Poverty Action Lab South Asia(J-PAL)と協力し、「Gender Sensitisation(ジェンダーに関する意識啓発)」を通常のカリキュラムに組み込んでから5年。
教科書のページには、その変化が目に見える形で表れている。

女の子にキッチンセットを、男の子には車や飛行機を贈ることが、ジェンダー・ロールにどのような影響を与えるのかを説明する内容から、これまで歴史の周縁に追いやられてきた女性たちに光を当てる内容まで、新しいカリキュラムが目指すものはひとつだ。
幼いころからジェンダー・バイアスを理解し、疑問を持ち、それに立ち向かうことである。

こうした変更は過去3年間に段階的に進められ、直近では今学年度にも実施された。

この取り組みは、とりわけ英語と社会科のカリキュラムで目立つ。
「A Gift for Sidhak」のような物語から、ラズィーヤ・スルターン(Razia Sultan)やヌール・ジャハーン(Nur Jahan)といった歴史上の重要な女性を、これまでとは異なる視点から捉える内容まで含まれている。

取り組みの対象は生徒だけではなく、教師にも及ぶ。

パンジャーブ州教育局で「Gender Sensitisation」カリキュラムの担当責任者を務めるSunita Prabhakar氏は、「The Indian Express」にこう語った。

「教材や教科書だけでは変化をもたらすことはできない。こうした内容を教室でどのように伝えるのかについて、教師たちの研修も行っている。現在のカリキュラムには、家族が女性のキャリアへの希望をどのように支えるべきか、また男性も家事に参加すべきだという内容の物語も盛り込まれている」

最も大きな変更が加えられたのは6~8年生の教科書だが、一部のテーマは9~12年生でも扱われている。

6年生の英語教科書に掲載されている「A Forgotten Wish(忘れられた願い)」という章では、結婚した女性も自分の両親の世話をすることができ、結婚後の娘は「burden or a stranger(重荷や他人)」ではないと描かれている。*

物語では、結婚した女性Khwahishが、自分の「bebe(母親)」の世話をしたいと考えている。
しかし母親の方は、結婚した女性は夫の家に属するものだと思っている。

ところが、その考えは母親が病気になり、海外にいる息子が帰国できなくなったことで変わる。

代わりにすべてを引き受けるのがKhwahishだ。
母親の目の手術を受けさせるのもKhwahishであり、その後の世話をするのも彼女である。

8年生の英語教科書のある章では、硬直した社会規範によって、結婚した女性がどのような機会を失うことがあるのかを生徒に考えさせる。

「Smashing the Glass Ceiling(ガラスの天井を打ち破る)」と題されたこの章は、家事労働者の娘Paramjeetと、その母親が働いていた家の娘Geetの物語である。

25年後に2人が再会したとき、それぞれの人生は正反対の道をたどっている。

Geetは修士号を持つ高学歴の女性だが、家族が外で働くことを認めないため、専業主婦になっている。
一方、学歴ではGeetに及ばないParamjeetは、自分でコンピューター関連のビジネスを営み、自信に満ちた女性になっている。

物語は最後に、GeetがParamjeetに仕事を求める展開となる。

そして冒頭から、物語のテーマは明確に示される。

「一般には、女性は自分でビジネスを経営できないと思われている。しかし、卓越した能力や才能はジェンダーによって決まるものではない。女の子が高い教育を受けていたとしても、家族の世話だけをすることを期待されることがある」

この章では「女性は自分の価値を証明するために、より一層努力しなければならない」と述べている。*

パンジャーブ州教育局のSunita Prabhakar氏は、特に公立学校において、こうした授業がなぜ重要なのかを説明する。

「公立学校の子どもたちの多くは恵まれない環境の出身であるため、職業の選択肢も狭く、偏りがある。女の子たちは、自分がなれるのは、せいぜい教師か看護師だと思っている。私たちはそれを変えようとしているのだ」

教科書における最も重要な変更のひとつは、生徒たちに歴史、そしてその中の女性たちをどのように見るかを教えている点にある。

特に教科書では、1236年から1240年に廃位されるまでデリー・スルターン朝を統治したラズィーヤ・スルターンと、ムガル帝国皇帝ジャハーンギール(Jahangir)の正妃であり、ムガル帝国の王座を支えた実質的な権力者として広く知られるヌール・ジャハーンの役割に光を当てている。

教科書では、ヌール・ジャハーンは単にジャハーンギールの「妻」だったわけではなく、ラズィーヤ・スルターンも単にスルターンShams ud-Din Iltutmishの「娘」だったわけではない、と記されている。

ラズィーヤについて扱った章の最後にある活動型の設問では「ラズィーヤ・スルターナー(Razia Sultana)が殺害された原因は何だったのか?」と問いかける。

さらに、デリーで最初かつ唯一の女性ムスリム統治者だったラズィーヤについて、次のような質問が続く。
「もしラズィーヤが現代に生きていたとしたら、デリー初の女性統治者になるまでに、どのような困難に直面しただろうか? 当時、彼女は女性についてのどのような固定観念を打ち破ったのだろうか?」

章では、その問いに対する答えも示している。
「彼女が殺されたのは、男性たちが女性の指導者に従い、命令を受けることを望まなかったからである。軍の将軍たちは、女性の下で生涯を過ごすことを望まなかった。ラズィーヤ・スルターナーは最初の女性ムスリム統治者だった。幼少期から軍事について訓練を受け、ジェンダーが分からない服装をし、ベールを捨てた。これは保守的な社会に衝撃を与えた……。人々は、男性は生まれながらにして指導者であり、女性が統治や政治に進むには、はるかに努力しなければならないと考えている。歴史的に、女性はこうした多くの困難に直面してきた」

同様に、ヌール・ジャハーンについての章では、彼女について「ムガル時代で最も人々を鼓舞した女性であり、伝統的な規範に逆らい、夫と並んで公然と統治した」と説明している。

「彼女は王国の行政に強い関心を持っていた。ジャハーンギールは、あらゆる問題について彼女の助言を求めた。狩猟、命令や貨幣の発行、建築物の設計など、次々と行動を起こし、公の記憶と歴史の中に自分の名を刻んだ。夫が捕らえられた際には、その釈放を実現した。男性の方が女性より優れた戦略家だという考えを打ち破った……。彼女こそがジャハーンギールの統治を支えた実質的な権力者だった。社会はしばしば女性を美しさや義務の対象としてしか見ないが、彼女はそれに抗った」
 

ASKSiddhiは、Noteでも記事をアップしています。
今後メンバーシップを利用した企画なども考えていますので、
よろしければフォローしてみてください。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



Share it with


User Comments

Leave a Comment..

Name * Email Id * Comment *