タミル映画と権力: CBFCをめぐる2本の映画の行方

 

Posted on 12 Jan 2026 21:00 in インドの政治 by Yoko Deshmukh

映画がプロパガンダの道具になっているのは、タミル・ナードゥ州だけではない気がするけどね。写真は2025年7月、チェンナイのマリーナ・ビーチにて。



インド在住歴は長いが、地方都市プネーにて引きこもりがちな生活をしていること、そして映画やエンターテインメントへの知識が浅いこともあり、昨年末あたりから日本におけるタミル映画ファン界隈のTwitterユーザー間でたびたび噴出している、俳優であり政治家でもある某氏のファンダム問題については、俯瞰して眺めているばかりであった。
そうした折、チェンナイを本部とする伝統紙「The Hindu」のRamya Kannan氏による興味深い寄稿を見つけたので、内容を抄訳したい。

Tamil Nadu, where cinema and politics meet

タミル・ナードゥ州では映画と政治は常に、こよりのごとく分かちがたく絡み合っている。
この地の政治家が映画をプロパガンダの手段として利用することはもはや常套となっており、映画界の重鎮が政界に進出し、うち3名が州首相にまで就任していることからも、それは明らかだ。
しかし、このあまりにも緊密な関係が、時として波乱を巻き起こすことがある。

その最新の出来事は、2本の映画にまつわるものだ。
今月はじめ、「中央映画認証委員会(Central Board of Film Certification、CBFC)」が、人気スターで新進気鋭の政治家でもあるヴィジャイ(Vijay)主演の『Jana Nayagan』、そしてシヴァカルティケヤン(Sivakarthikeyan)主演の『Parasakthi』の公開承認を延期したことで、論争が巻き起こっている。

ヴィジャイ氏にとって映画界におけるキャリア最後の作品とされる『Jana Nayagan』は、タミル・ナードゥ州議会選挙の数か月前の「ポンガル(Pongal)」*という戦略的時期を狙って公開される予定だった。
予告編を見る限り、同氏が模索する政治的野心、そしてその政党にとっての出発点となる作品となっている。
映画の中で同氏が演じる役の名前には、政党「Tamilaga Vetri Kazhagam」の頭文字である「TVK」が付けられている。

この作品は2025年12月中旬にCBFCに提出され、編集案が承認された上で最初の審査を通過し、「U/A認証」*を取得したと報じられている。
しかしその後、CBFCの委員の1人が反対意見を表明し、同作は裁判所に直行することになった。
理由として挙げられたのは、一部のシーンが「宗教的感情を傷つけ、軍の実情を誤って表現している」という点だった。

製作会社の「KVN Productions」はマドラス高等裁判所で有利な判決を勝ち取り、同作の16歳以上対象認証(U/A 16+)の発行が認められた。
しかしCBFCからの上訴を受け、小法廷は仮差し止めを認め、次回審理を1月21日に延期した。
これにより、映画は当初予定されていたポンガル前の金曜日(1月9日)の公開を逃しただけでなく、ポンガルの連休(1月15日~18日)も逃すこととなった。
なお製作者らは、1月12日に最高裁判所に緊急上訴を申し立てたと報じられている。

ヴィジャイ氏はこの件について沈黙を守っているが、中央政府がCBFCを武器にしていると非難する声もある。
映画製作者らは、CBFCが認証取得を求めて執拗かつ不要な追及を続けているとしている。
TVKの代表者は、「意図的な妨害行為」があったと主張した。
タミル・ナードゥ州議会の代表者らは、CBFCを「表現の自由への攻撃」だと非難し、今回の動きは法定機関の政治化が進む一例だと述べた。

DMKとTVKの対立にもかかわらず、別の政党(DMK)*の党首でタミル・ナードゥ州首相でもあるスターリン(M.K. Stalin)氏は、インド人民党(BJP)主導の中央政府が、中央捜査局(Central Bureau of Investigation)、執行局(Directorate of Enforcement)、所得税局(Income Tax Department)と同様に、CBFCを武器化していると非難した。

なお、もう1つ公開が延期されている『Parasakthi』は、州副首相であるウダヤニディ・スターリン(Udhayanidhi Stalin)氏が設立した「Red Giant Movies」によって配給されている。
同作は1960年代のタミル・ナードゥ州における反ヒンディー語運動を描いている。
一部のカットや修正には、ヒンディー語への言及や、アンナードゥライ(C.N. Annadurai)*に帰せられる表現が含まれている。
反ヒンディー語運動は、タミル・ナードゥ州で依然として感情的な影響力を持ち、近年は州外にも広がりを見せている。

タミル・ナードゥ州では、製作された映画がたびたび「敏感なテーマ」をめぐってCBFCや連邦政府と衝突してきた。
2013年に映画『Vishwaroopam』で厳しい批判を受けた俳優カマル・ハサーン(Kamal Haasan)氏は今月10日、声明を発表し、「映画認証プロセスを原則的に見直し、明確な期限、透明性のある評価、そして提案されたカットや編集すべてに対する書面による合理的な正当性を示す」ことを求めた。
同作は当初CBFCの承認を得ていたものの、テロ描写に反対するイスラム教徒団体の抗議を受け、州政府によって15日間の上映禁止措置が取られた。

前述のヴィジャイ氏が主演した2017年の映画『Mersal』は、GST(物品税)と医療民営化を批判したことで政治的反発を招き、再びCBFCによる修正を受けた。
2025年には、未決囚の窮状を描いたヴェトリ・マーラン(Vetri Maaran)監督の政治ドラマ『Manushi』が検閲をめぐる争いに巻き込まれ、最終的にカットを減らした形で、マドラス高等裁判所によるU/A認証が付与された。

タミル・ナードゥ州では、映画と政治が人びとの熱狂を煽る材料とされることが多く、今後も論争を巻き起こす可能性は高い。
自由な創作精神は、しばしば裁判所の介入を受けながら、政治の強制に屈服せざるを得ない状況に置かれている。

*脚注
ポンガル(Pongal): 毎年1月中旬に祝われるタミル人最大級の収穫祭で、祝日期間中は映画の興行収入が最も見込める時期とされる。
U/A認証: インドの映画認証区分の1つで、「12歳未満は保護者の同伴が必要」とされる区分。内容は全年齢向けよりやや成熟した表現を含む。
DMK(Dravida Munnetra Kazhagam): タミル・ナードゥ州を基盤とする地域政党で、反ヒンディー語政策や社会正義を掲げ、州政治に長年大きな影響力を持つ。
アンナードゥライ(C.N. Annadurai): DMK創設者で、タミル・ナードゥ州初の非議会系出身首相。反ヒンディー語運動とタミル・アイデンティティを象徴する政治指導者。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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