北東部出身者への差別と暴力、「どうすればインド人らしく見えるのか」

 

Posted on 09 Jan 2026 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

頻繁に聞かれる「Where are you from?」の問いに、わたしがそうするような感じで無邪気に答えることができない人びとがいることに、今さらながら思い至りました。



北部都市デヘラードゥーン(Dehradun)で昨年12月に発生した暴力事件に端を発し、人種差別の問題が改めて注目を集めている。
一昨年、初めてメガーラヤ州を訪問し、現地の人びとの容姿が肌の色を含めて、わたしたち東アジア系人種にとてもよく似ていることに驚いた経験から、インドに住む人にとっても、日本国内にいる人にとっても、わたしたち日本人に無関係ではないと感じるため、内容を抄訳したい。

‘How do we look Indian?’: Student’s killing puts spotlight on racism in India

北東部トリプラ州出身のアンジェル・チャクマ(Anjel Chakma)さんとマイケル・チャクマ(Michael Chakma)さん兄弟は、大学進学を機に自宅から2,400キロ以上離れたデヘラードゥーンに住んでいた。
ところが昨年12月9日、市場に出かけた際、男たちの集団に遭遇し、人種差別的な暴言を浴びせられた。

父親のタルン・チャクマ(Tarun Chakma)さんが兄弟から聞いた話をBBCに語ったところによると、その暴言をとがめたマイケルさんは金属製のブレスレットで頭部を殴打され、アンジェルさんは刺し傷を負うほどの暴行を受けた。
その後、マイケルさんは回復したが、アンジェルさんは17日後に病院で死亡した。

デヘラードゥーンが位置するウッタラーカンド州の警察は、この事件に関与したとして5人を逮捕したが、襲撃は人種差別的な動機によるものではないと否定、チャクマさんの家族はこの主張に強く異議を唱えている。

この事件をきっかけに、国内複数の都市で抗議活動が起こっている。

インド北東部の州から、進学や就職を機に大都市へ移住してきた人々が直面する、外見を嘲笑されたり、「国籍を聞かれたり」、公共の場や職場で嫌がらせを受けたりする人種差別は、たびたび注目を集めてきた。

多くの人にとって、差別は嫌がらせにとどまらず、生活の場や様式といった日常生活にも悪影響を及ぼしている。
また、容姿や食習慣、あるいは固定観念を理由に、アパートなどへの入居が拒否される事例も報告されている。

こうした圧力を嫌い、大都市に住む北東部出身者の多くは、特定地域に密集して暮らすようになっている。

実際、インドではここ数年、北東部出身の人々を標的とした人種差別的な暴力事件が数多く発生している。

2014年には、アルナーチャル・プラデーシュ州出身の20歳の学生、ニド・タニア(Nido Tania)さんが、デリーで容姿に関する嘲笑を受けた後に殺害される事件が起きた。これは全国的な論争を巻き起こし、抗議活動や人種差別をめぐる議論を喚起した。

一方、人権団体は、こうした事件が多発しているにもかかわらず、「極めて暴力的な事件が起こった場合以外は」全国的な注目を集めていないと指摘している。

デリーに拠点を置く人権およびリスク分析グループのスハス・チャクマ(Suhas Chakma)所長によれば、連邦政府は年次犯罪報告書において、人種差別による暴力に関する個別データを公表していないという。

ある北東部出身者は、「私たちの顔の特徴、例えば細い目や低い鼻などは、人種差別の標的になりやすい」と語る。

別の人は、数年前、職場での議論中に同僚から人種差別的な暴言を浴びせられた経験を振り返る。
「それに立ち向かい、前に進むことを学ぼうとするが、重いトラウマを背負わずに済むわけがない」

メガーラヤ州出身の女性は、カルナータカ州の大学に進学したものの、クラスメートから繰り返し人種差別的な言葉を浴びせられることに疲れ、大都市で就職活動をする計画を断念し、実家に戻ることを決めた。
「人種差別的だとか、人を傷つけるとかいうことを想像できずに、こうした言葉を使う人もいれば、知っていながら使う人もいる」

活動家らによると、北東部州出身者の多くは、主要都市の職場や大学、そして公共の場で、人種差別的な嘲笑や差別が日常茶飯事だと述べている。

「どうすれば十分にインド人らしく見えるのか。残念ながら、明確な答えはない」と、都市部における人種差別の苦情増加を受け、連邦政府が2018年に設置した監視委員会の委員を務めるアラナ・ゴルメイ(Alana Golmei)氏は語る。

ゴルメイ氏は、個々の事件を人種差別とは無関係な単発の出来事として片付けることは、問題をさらに深刻化させるだけだと指摘する。
同氏は「問題に対処するには、まず受け入れ、認識する必要がある」とBBCに語った。

アンジェル・チャクマ氏の殺害事件を受け、反人種差別法の制定を求める声が再燃している。
複数の学生団体や市民社会団体が、法改正を求める公開書簡を発表している。

2014年にニド・タニア氏が殺害された事件の後、インド政府は、北東部出身で地域外に住む人々が直面する差別を調査する委員会を設置した。

同委員会は同年、内務省(home ministry)に報告書を提出し、人種差別が蔓延していることを認め、独立した反人種差別法の制定、迅速な捜査、制度的保障措置などを勧告した。

しかし活動家らは、それは一時的な動きに過ぎず、ほとんど何も変わっていないと指摘する。
具体的な反人種差別法は制定されておらず、勧告の多くは部分的にしか実施されていない。

反人種差別法の制定を求める声が再び高まったことで、社会行動に根ざしているとされる偏見に、法律で対処できるかどうかという、より広範な議論も再燃している。

チャクマ氏やゴルメイ氏といった専門家や活動家は、持参金やカーストに基づく残虐行為を犯罪とする法律の存在を挙げ、対処は可能だと主張している。

こうした法律は虐待を根絶したわけではないものの、被害者のエンパワーメントと意識向上に寄与してきたとされる。

「反人種差別法は、被害者のエンパワーメントを図り、通報体制を改善し、人種差別的虐待を明確に刑事責任の対象とすることができる」と、ゴルメイ氏は述べている。

一方、長男の死を悼むタルン・チャクマさんは、社会学の最終学年を修了するためにデヘラードゥーンに戻る予定の次男マイケルさんのことも案じている。
息子の安全への不安と、教育を放棄することが新たな損失につながるのではないかという思いの間で、葛藤しているのだ。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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