強制デジタルデトックスは突然に
Posted on 06 Dec 2025 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh
多くの人びとが真剣にデジタルデトックスを実践し始めていることの意味がすごくよく分かります。
スマートフォンのバッテリーの挙動が不安定になり、カメラの起動やSNSの閲覧、本体の再起動、音声通話など、まったく法則性のない予測不能なトリガーにより、急速に消耗して残量ゼロののちに強制シャットダウンしてしまうという現象が頻発している。
ときには大事な連絡を待っている最中に電源が落ちてしまうこともあり、じわりと頼りなさと不安のようなものが広がる。
使用している端末は「Google Pixel 6」で、記録を見ると2022年に購入したとあり、まだそれほど古いわけでもないだろう。
しかしボランティア自宅警備員のわたしは、パソコンとタブレットさえあればだいたいの用事は済むので、それほど不便にも感じず使い続けていたら、こんどはバッテリーパックが徐々に膨張し、ディスプレイを押し上げ始めている。
こうした予定外の故障や出費というものは、いつも生活の隙間に入り込んで、わずかに計画を狂わせる。
必要だとわかっていても、ため息が先に出るものだ。
ちょうど一時帰国のタイミングが重なったこともあり、先月末より日本の「Googleストア」で展開されていた「ブラックフライデー」セールを利用し、取り急ぎ「Google Pixel 9a」を購入した。
古い端末の下取りプログラムも合わせると、1台の価格は5万円ちょっととなり割安感はあるが、ことし不景気のどん底にあるわたしにとっては痛い出費である。
このようにしてインフラと化したスマートフォンが急に使いにくくなってしまいあせりつつも、その中でひとつ、大きな収穫を得た。
スマートフォンの用途が、本来の機能である通話と、ときどきメールのチェックぐらいに思い切り限定されていることで、むしろ心のゆとりと自由な時間が増えたように感じるのである。
通知が鳴ってもいないのに、条件反射のように手を伸ばしてしまっていた自分は、ふだんいかに何気なく持ち上げたスマートフォンに釘付けになり、時間を溶かしていたのかがわかる。
これを機に、スマートフォンと自分との距離感を見直すことになり、怪我の功名だ。
たとえば、人生にとって大切にしたい時間とは、明るい月や風にそよぐ木々を眺めたり、プネーにも訪れつつある冬の匂いを嗅ぎ取ったり、おいしいものを集中して味わったりすることにある。
朝の日課であるウォーキングも、手持ち無沙汰に立ち止まって風の匂いに確かな季節の変化を感じ、呼吸が深くなる。
道ばたの木々の影が少しずつ乾いた冬の色に変わっているのを眺めるのは、何年ぶりのことだろう。
スマートフォンにいつの間にか時間を食われていたことに気づいたことで、生きている今、この瞬間のはかなさを思う。
わたしはどれほどの時間を、気づかないうちに小さな画面へ差し出していたのだろう。
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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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