デリー空港から「冬装備」のインド人に圧倒される

 

Posted on 07 Dec 2025 21:00 in トラベルASKSiddhi by Yoko Deshmukh

機内で働く人のサリー姿こそ、インド全土で見られる多様な巻き方をデモンストレーションして欲しいな、などと妄想しています。



朝8時前、12月らしく冷えた空気の中、薄い朝靄の残るプネーを発つ便でデリーに向かい、空港での数時間のトランジットを経て、羽田行きの便で一時帰国してきた。

今回の帰国便は、われらがエア・インディア。
不思議なことに、デリーから羽田への直行便よりも、プネーからデリー経由羽田行きの経由便(いずれも往復)の方が安かったのである。

「IndiGo」の運行ボイコットによる大量欠航騒ぎで、普段よりずっと落ち着いていたプネー空港のカウンターで預けた手荷物は、最終目的地の羽田空港にきちんと届けられた。

前回エア・インディアの国際便を利用したのは、2020年のコロナ禍一時帰国のときである。

巨大ながらゴミひとつ落ちていない美しいデリー空港T3に並ぶ搭乗ゲートに表示された行き先を眺めてみると、近場ではバンコク行き、プーケット行き、ホー・チ・ミン・シティ行き。
さらに羽田行きの周辺ゲートには、上海行き、バクー行き、ニューヨーク行き、モントリオール行き、ソウル(仁川)行きと、国際都市の名が規則正しく点滅し、搭乗案内を待つ乗客たちのざわめきが空間を満たしている。
あらためて首都のターミナル空港にいることを実感させられる。

羽田便もほぼ満席で、乗客のおそらく95パーセント以上がインド人であった。

エア・インディアと言えば、搭乗した瞬間から到着地で飛行機を降りる瞬間までインド世界である。
この日のデリーは朝晩が15度前後ではあったが、ターミナルや機内はそれなりの空調が効いていた。
わたしは七分袖の薄手コットンのシャツに、同じくコットンのブロックプリント柄パンツといういでたちで、これもある意味でインド人ぽい。

しかし他の乗客のみなさんときたら、搭乗前からフリースやらダウンジャケットやらを着込み、口々に「日本は寒いらしいよ」とはしゃぎながら、すっかり東京の冬支度である。
デリー空港を発ってもなお、羽田空港のターミナルに入るその瞬間まで、尻尾までたっぷりあんこの詰まったインド世界を堪能したわけである。

機内食は、Aviation YouTuberの「Sam Chui」氏による動画であらかじめ予習していた、あの巨大キッチンで作られたに違いないチキン・ビルヤーニーである。
器に触れた手が思わず「熱っ」と反応してしまうくらいのできたて感で届き、ホイルのフタを開けた瞬間に立ち上る、辛すぎずほどよいスパイスの芳醇な香りが通路の空気に混じる。
狭いエコノミークラスの座席ではふだん食欲が湧かないのだが、動画に登場した自慢げなおじさんの顔を思い浮かべながら、手作りの味をおいしくいただいた。

デザイナーのManish Malhotra氏が手がけた女子の新制服は、パンツスタイルとプリドレープサリースタイルの2通りを初めて間近で見ることができた。
歩くたびに布がわずかに揺れ、コーポレートカラーである深い赤を基調とした色味も上品である。
しかし後ろ姿の着崩れが少し気になった。
おせっかいながら、機内の重労働でもシャープかつ動きやすい制服をデザインして欲しい。

それにしても降機前のアナウンスが秀逸であった。
まず、着陸態勢に入った機内からパイロット氏の「当機はまもなく、東京・成田空港に到着します(えっ)」。
そして着陸後、ドアが開く直前にキャビンアテンダント氏の「本日はエア・インディアにご搭乗いただき、誠にありがとうございます。またのご搭乗をお待ち申し上げております。それではこの先も、羽田滞在をお楽しみください(えっ)」。
ひとりひそかにウケていた。

さて、羽田空港ターミナルに入り、バゲージクレイムまで来ると、周囲のインド人たちは先ほどまでの威勢の良さは大きくなりを潜め、なんだかお利口さんになっている。
自分や家族のスーツケースばかりでなく周囲にも自然に目配りをして気を遣っているのが分かり、わたしがこれまであまり見たことのない種類のインド人たちができあがりつつあるのである。

そんなことを考えながらスーツケースを待っていたら、上品な白のブラウスに淡いクリーム色地のサリーを巻いた、日本人とみられる若い女性客に目が留まった。
とても似合っていてすてきだなと、長い旅路の最後に幸せな気分になった。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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