ポンディシェリから空港のあるチェンナイへの帰り道、海岸沿いを北上してマハーバリプラムへ。
かつてこの地を訪れた際、食事処の豊富さと多様さに驚いた記憶がよみがえり、ちょうど昼時でもあったので、ランチ休憩をとることにした。
ポンディシェリで滞在していたエアビーアンドビー(Airbnb)のホスト、Shankarさんが手配してくださったタクシーの運転手さんにおすすめを尋ねると、「任せてください」とにっこり。
連れて行ってくださったのが、こちらのチェティナード(Chettinad)料理のローカル食堂だった。
店内に足を踏み入れると、観光客の姿はなく、周囲は地元の常連客らしき人びとばかり。
けれども、店の隅々まで行き届いた清掃に目を見張る。
床にはチリひとつ落ちておらず、整然と並んだテーブルと椅子に、タミル・ナードゥ州の人びとの気質を感じる。
わたしはこの州に入ってからというもの、どうしても地魚が食べたくてたまらなかった。
その思いを抑えきれず、席に着くやいなや、メニューも見ずに「フィッシュフライ」を即注文。
お供にはもちろん、ライスとラッサム(Rasam)。
この組み合わせ、もう、たまらない。
やがて運ばれてきたのは、丸ごと一尾の小ぶりな魚。
見るからに硬そうな骨が多く、おそらくKoduva(Barramundi)である。
これはもう、手でいくしかない。
店内には、軽快な打楽器のリズムを中心としたタミル音楽が心地よく響き渡り、隣のテーブルでは、クールなタミル系ジェントルマンが豪快にミールスを手食している。
その食べっぷりに見とれながら、揚げたての魚を茹でたての白いライスの上にのせ、熱々のラッサムをたっぷりとかけ、指先でアチアチ言いながら混ぜ混ぜ。
そして一口。
魚の凝縮された旨味と、ラッサムの酸味とスパイスが、ほんのり塩味のライスと溶け合って、まさに口の中が交響曲。
う、うまい!
手で食べることで、指先に小骨の感触が伝わり、余計な緊張感がなくなる。
何より、「五感で食べるとはこういうことか」と、身体全体で実感する。
さらに、ほんとうは反則だろうに、シッダールタが頼んだミールスについていたライスを店の方が気前よく分けてくださり、プレッシャーを感じることなく、思う存分食事を楽しむことができた。
噂に聞いていたチェティナード料理の一端を体験できて、その味に魅了される人びとの気持ちとともに、心身ともに満足してお店を後にした。
バナナの葉っぱを閉じると、ごちそうさまの合図。
ミールスのメニューにある「Plain Gravy」とは、
チキンやマトン、フィッシュの「ダシ」が効いたスープの意味。
右にチラ見えしているマネージャー氏が、味のあるイイ男だった。