海外経験が評価されない理由: インド雇用市場の本音

 

Posted on 20 May 2025 21:00 in 海外のインド人 by Yoko Deshmukh

いったん海外に出た人々は、母国に帰ってくるという選択肢を取ることはほとんどなく、移住先の国に永住または国籍を取得するパターンが大半だし、ほぼそのために渡航しているのではと思っていました。



長年海外でキャリアを積んできたインド人がUターンして就職しようとしても、インドの雇用市場からは想像していたほど歓迎されない、という興味深い話題を、Sarabjeet Sachar氏が「The Hindu」に執筆していたので抄訳したい。

When global experience doesn’t impress: The struggle of returning NRIs

母国を離れて海外に居住するインド人のことをNRI(Non-Resident Indian)と呼ぶ。

多くのNRIの「LinkedIn」のプロフィールは魅力的なものになるし、履歴書には海外での経験、異文化リーダーシップ、そして価値の高いプロジェクトの実績が反映されていることだろう。
しかし、いざ企業に応募してみると、沈黙、ためらい、あるいは丁重な断りを受けることになる。
そこには「見えない壁」があるという。

Uターン組の多くが経験するのは、逆カルチャーショックと市場のミスマッチという、独特の組み合わせである。
これはライフスタイルの問題だけでなく、雇用市場の仕組みにも関わっている。

採用担当者や企業は、しばしばこう考える。
「この志望者はこれから先、長期的にインドに定住するつもりだろうか」、「インドの職場文化に適応できるだろうか」、「グローバルレベルの報酬と福利厚生を期待しているだろうか」

その結果、優秀な人材であっても、十分に検討される前に選考から外されてしまうことがよくある。

そして、インドの求人市場自体の構造も問題となる。
上級管理職の枠は数が少なく、競争が激しく、また人間関係(いわゆるコネ)が非常に重要である。
履歴書だけが立派でもどうにもならない。
志望者を知る人は誰で、信頼しているのは誰か。
そうした採用プロセスにおける暗黙のルールを、どれだけ理解しているかが重要になる。

たとえばシンガポールで15年の経験を持つあるテック系プロフェッショナルは、インドで100件以上の求人に応募し、8か月後にようやくスタートアップ企業に入社したが、給与は以前の水準から40%も下がってしまった。

イギリスを拠点に長くマーケティング責任者として勤務してきた女性は、「資格過剰」と何度も言われた。
誰からもオファーが来なかったため、コンサルティングに転向。現在は会社経営者として成功を収めているが、キャリア転換当初は困難を極めた。

別の財務プロフェッショナルは、高齢の両親を介護するためにインドに戻ったが、多国籍企業で数十年もの経験があったにもかかわらず、「インド市場の現実」を理解していないと言われた。

なぜこのようなことが起こるのか。
まず、グローバルな経験さえあれば、錦を飾れると期待していることが間違っている。
インド企業には肩書きは通用せず、グローバル戦略だけでなく、状況に応じた適切な対応が求められる。

下調べなしに海外からリモートで応募してくる多くのNRIは、現地での人脈や存在感を構築していない。
これでは成果が出ることはほとんどない。

Havas Indiaの最高人事責任者であり、アジア太平洋地域担当の最高インクルージョン責任者、ヴァンダナ・ティルワニ(Vandana Tilwani)氏に、海外市場からインドに戻ってくる候補者を評価する際にどのような基準を用いるのか尋ねた。
「私は3つの主要な基準を見ています。1つ目は、海外での経験が現地市場という文脈に関連性と適応性を持っているか。つまり、そこ(海外)で得た洞察を、ここ(インド)で意義のある成果につなげられるか。2つ目は、文化的な柔軟性と、進化するインドの職場に再統合できるオープンな姿勢があるか。3つ目は、長期的な意志とコミットメントがあるか。エコシステムを構築し、貢献し、共に成長するために、長く腰を据える覚悟があるかを見ています。こうした要素を組み合わせることで、(候補者がもたらし得る)短期的な価値と将来の可能性の両方を測ることができます。」

つまり、真剣にインドに戻ってくるつもりなら、経歴よりも戦略が重要である。

移住の準備に当たっては、インドの同僚、メンター、元同僚と再び連絡を取ること、そして柔軟に対応することが肝心だ。

確かに、これまでグローバルなチームを率いてきたかもしれないが、しかしインド市場では適応力がむしろ重視される。
たとえ一時的に役職や給与が下がっても、長期的な成功につながる扉を開く気概が必要だ。

たとえば、グローバルやローカルを問わず、さまざまな企業により国内に続々と開設されているグローバル・ケイパビリティ・センター(GCC)は、スタッフの海外経験を重視し、移行に伴う課題を理解しているため、Uターン組にとって円滑な着陸地点となる場合が多い。

「ただ」帰国するだけではなく、グローバルなビジョンと現地でのコミットメントを組み合わせ、国際的なベストプラクティスとインド市場の動向を理解し、橋渡し役として自分自身を位置づけることも有用である。

インドに戻るということは、ゼロから始めることでは決してない。
むしろ、グローバルなストーリーを現地のオーディエンスに合わせて再構築することを意味する。
自分の価値を下げることではなく、市場のニーズと理解に合わせることを目標としたい。

積極的に行動しつつも、謙虚さを保つことで、(自分がいた国と)比較するのではなく、貢献するために尽くしたい、という思いを伝えるような存在感を築くとよいだろう。

グローバルな経験は貴重だからとお高くとまることなく、それをインド市場が理解できる言葉で伝えるなど、適切なアプローチをとれば、Uターン就職は単なる帰国ではなく、飛躍的な前進となる可能性が大いにある。

 






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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