174年続いたハイダラーバード旧市街の「Munshi Naan」、存続の危機に直面
Posted on 01 May 2025 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh
これはすごく残念な話題だな。
ハイダラーバードの旧市街で1851年からナーンを焼き続ける老舗ベーカリー、「Munshi Naan」が、存続の危機に直面しているという記事を「The Hindu」で見つけた。
174-year-old Munshi Naan, an iconic Hyderabad establishment, to shut shop due to Metro work
ふっくらとした四角い形状が特徴のナーンは、ちぎってニハーリー(nihari、こってりとした肉スープ)に浸して食べるのが定番だ。
創業から174年を迎えたこの店は、ハイダラーバード・メトロ(Hyderabad Metro)が市街地と空港を結ぶ「フェーズ2」路線工事のため、取り壊しの予定となっている。
この地域でも屈指の伝統を誇るベーカリーは、早朝5時半にはシャッターを開ける。
夏季はやや売り上げが落ちるものの、焼きたての香ばしい四角いナーンを求めて、開店と同時に店頭や駐車場は客で埋め尽くされる。
店主のハミード(Hameed)さんは、メトロ運営会社「Hyderabad Metro Rail Limited(HMRL)」からの補償小切手を待ちながら、移転先の賃貸物件を探している。
しかし、立ち退きのニュースを受け、メトロ工事の予定がない地域でも賃料が高騰し、月額5万ルピー以上を提示されているうえ、敷金も高額だという。
ハミードさんは、祖父が創業したこの店を失った場合、新たに店舗用物件を購入する余裕はなく、賃貸に頼るしかないと語る。
「Munshi Naan」という店名は、創業者モハメド・フセイン(Mohammed Hussain)氏に由来する。
彼はハイダラーバード第4代ニザーム(Nizam、藩王)ナシル・ウス・ダウラ(Nasir-us-Daula)のもとでムンシ(事務員)として働いていたことから、この名前がつけられた。
フセイン氏はデリーでナーン作りを学び、伝統的なタンドール窯「バッティ(bhatti)」でナーンを焼くスタイルを取り入れた。
発酵させた生地は素手で四角く成形され、厚手の布製枕に寝かされる。
金属製の櫛を使って基本の型を作り、水に軽くくぐらせた後、円形窯の壁に押し付けて焼き上げる。
焼き時間は10〜15分ほど。
窯では一度に42枚のナーンを焼くことができる。
ナーン1枚の価格は20ルピー。
記者から「解体後も旧市街に残るのか」と問われたハミードさんは、
「この店とバッティの物語はこの場所に深く結びついています。この土地から離れることはあり得ません」
と語った。
世界のナーンとハイダラーバード式ナーンの違い
ナーンといえば、一般的にはインドや中東、中央アジアで食べられている丸型または楕円形のものが主流だ。
しかし、ハイダラーバード旧市街の「Munshi Naan」のような四角いナーンは、世界でも非常に珍しい存在とされている。
四角い形にする理由には、伝統的なタンドール窯(バッティ)で効率よく焼くため、また大量に作る際に並べやすく、扱いやすいという実用的な側面があると考えられている。
さらに、ニハーリーなどこってりとしたスープ料理に浸して食べる文化に合わせて、ふっくら厚みのあるスタイルが好まれた。
ちなみに、イランやアフガニスタンにも長方形のパン(サンガクやラヴァシュなど)は存在するが、これらは薄くてパリッとした食感で、ハイダラーバード式ナーンとはまったく異なる。
この四角く厚みのあるナーンは、ハイダラーバード独自の食文化として、今なお地元の人々に愛され続けている。
追加トリビア
「Munshi Naan」のナーンは、イーストを使わず、自然発酵で生地をふくらませている。
ほかの地域のナーンと比べると、厚みがあり、ふわっとした食感が特徴だ。
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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
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