医療が届くまでに失われる命: インド農村部の現実を描く『Staying Alive』
Posted on 21 Aug 2026 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh
こちらも「Must Read」リスト入りです。
インドの農村部を中心に医療活動に従事する医師が、悲惨な現場と医療格差について追求する書籍を、「The Hindu」で紹介していた。
When healthcare comes too late | Review of Ramani Atkuri’s Staying Alive
Ramani Atkuri氏著『Staying Alive』の冒頭は、妊娠後期の妊婦が2本の竹ざおに固定された木製の椅子に座り、4人の男性に担がれて診療所に運ばれてくるシーンで始まる。
妊婦によると、2日前から陣痛が始まっているのに出産には至らず、体力をつけるためだというtakatara suji(注射)*を2回受けたと申告する。
極めて厳しい状況の中、医療従事者たちは可能な限りのことをする。
ジープに妊娠後期の妊婦を乗せ、山道を猛スピードで下り、地区病院へ急ぐ。
病院では、窓の格子に点滴をつるした。
患者に輸血が必要になっても、家族は貧血がひどく献血できないことが分かり、医療従事者たちが自ら血液を提供する。
手持ちの金を使い果たし、自分たちのための紅茶1杯すら買えなくなると、薬を掛けで購入する。
それほどの努力にもかかわらず、Atkuri氏によれば数日前にはすでに亡くなっていた可能性のある赤ちゃんも、妊婦も助からなかった。
Atkuri氏は、この妊婦の物語を通じて、インド農村部の妊産婦が置かれた現状を描いた。
「まだ20歳になったばかりの若い妊婦の死を引き起こしたのは何だったのか。それは1つの要因ではない。難産、『体力』をつけるための不適切な注射、子宮破裂による感染とショック、医療を受けるまでの長い距離、そして病院での治療の遅れである」
社会の片隅に置かれた人々にとって、「医療」という言葉は、おそらくあまりにも大きすぎる。
飢え、出血、気付かれない膿瘍、マラリア蚊の一刺しなど、命を奪いかねないあらゆるものに屈しないための努力だからだ。
『Staying Alive』は、見過ごされ、忘れ去られた人々が、生き延びるためだけにどのように闘っているかを描いている。
Atkuri氏は医師としての訓練を受け、CMC Velloreで地域医療を専門に学んだ。
その後35年間にわたり、主にインド中部の農村や部族コミュニティーで活動してきた。
社会の周縁から届くこれらの報告の中で、同氏は人々の物語を伝えている。
ある女性は、長く苦しい2年間にわたり誤診を繰り返された末、ようやく皮膚疾患の正体がハンセン病であると診断される。
糖尿病を患う中年の仕立屋は、回復することのない視力低下という現実を受け入れていく。
治療を受けていなかったてんかんを抱える10歳の子どもは、火の中に倒れ込み、全身にやけどを負って運び込まれる。
これは、制度から見えなくなっている人々の物語だ。
簡潔で抑制された文章で、Atkuri氏はその現実を目撃し、その闘いを書き留めている。
干ばつによって引き起こされる生活苦からの移住は、さらに新たな困難をもたらす。
それは人々を土地から引き離すだけでなく、それまで辛うじて得られていた診療所や医療従事者へのアクセスからも切り離してしまう。
借金に押しつぶされた家族は、言葉さえなじみのない土地へ移ることを余儀なくされる。
継続的な医療から離れれば、子どもの予防接種の日程や妊婦の妊婦健診が、州境を越えて人々を追い続けることのできない制度の隙間から、いとも簡単にこぼれ落ちてしまう。
Atkuri氏が取り上げるものの多くは、「放置」が生み出す病気や被害だ。
結核やマラリア、コレラ、ヘビによる咬傷、溺水、中毒、やけどは、貧困の中で日常的に直面する危険であり、その一部は栄養不良によってさらに深刻になる。
適切なタイミングで治療を受けられれば生き延びることができるが、治療がなければ命に関わる可能性がある。
Atkuri氏は制度そのものの弱点についても診断を下す。
インドの公衆衛生制度は、概念としてはよく構築され、政策もしっかりしているものの、投資不足、慢性的な人員不足、インフラの老朽化、データのばらつき、十分な計画なしに導入されるテクノロジーによって、その中身が空洞化していると指摘する。
そしてその結果が、医療費を最も負担する余裕のない人々が、結局そのかなりの部分を背負うことになっていると率直に述べている。
こうした問題のすべてを一挙に解決する万能薬はない。
そしてAtkuri氏は、地方分権化が、医療サービスの提供を改善する上で間違いなく役立ち、公衆衛生制度を農村コミュニティーのニーズにより対応できるものにすることができると指摘する。
それでも、本書に登場するような人々にとって、そうした恩恵はいつも少し遅れて届くことになる。
『Staying Alive』が代わりに私たちに示しているのは、社会の片隅にある命を、人間としての尊厳をもって見つめ、その人生について書き、そしてケアしなければならないという強い訴えである。

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Yoko Deshmukh
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インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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