「The Hindu」ウェブ版で、インドの女性が労働市場にますます参加するようになることで進行する、2つの「革命」について、英サセックス大学教授チランタン・チャテルジー(Chirantan Chatterjee)氏が分析した記事を、興味深く読んだ。
Linking women’s incomes and healthcare
女性の労働力率が向上することによって期待される革命、1つ目は経済的な革命である。
経済活動のフォーマル化※の進展、デジタル決済の普及、そして女性の労働参加を促進する政府の取り組みを背景とする。
2つ目は疫学的な革命である。
インドはもはや感染症だけと闘っているわけではない。
糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満、そして精神疾患が、公衆衛生上の主要な課題となりつつある。
こうした慢性疾患はすでに国内の死亡原因の上位を占めており、家計と公的財政の双方に対する負担を増大させている。
一方、政策議論では、この2つの変化は無関係であると考えられがちである。
しかし、「Oxford Open Economics」誌※に掲載予定の新たな研究※は、両者が実は深く結びついている可能性を示している。
インドでは従来、医療分野の進歩は、病院の増加、医師数の増加、保険加入率の向上、医療支出の拡大といった、一般的な指標によって測定されてきた。
こうした投資は依然として不可欠である。
たとえば、「Ayushman Bharat」※のような制度は数百万もの世帯に経済的な保障をもたらし、また、プライマリーヘルスケアのインフラ整備は今なお多くの命を救い続けている。
しかし、医療支出だけでは健康を生み出すことは難しい。
健康を左右する要素の多くは病院の外側に存在している。
つまり、より良い栄養、より健康的な生活習慣、適時の予防医療、教育、衛生環境、そして家計における適切な意思決定などである。
各世帯がそうした活動への投資を増やせば、健康状態の改善そのものによって医療支出が減少する可能性がある。
この研究では、2018年に実施された従業員積立基金(Employees’ Provident Fund)※の制度改革によって生じた自然実験が分析された。
同改革では、フォーマルセクター※に新たに就職した女性について、就業後最初の3年間に限り、積立基金への義務的拠出率が12%から8%へ引き下げられた。
結果として、女性たちは総支給額に変化がないまま、手取り給与が予想外に増加することになった。
これは、女性が追加所得をどのように配分するのかを分析する上で、極めて明確な研究機会を提供した。
全国代表性を持つ世帯パネルデータを用いた分析では、この政策の恩恵を受けた女性主導世帯において、医療支出全体が約11.6%減少したことが確認された。
医薬品や医師の診察に対する支出は減少した一方で、健康改善に関連する活動、具体的には栄養や身体活動への支出は増加していた。
さらに研究では、インド最大級の眼科病院システムが保有する電子カルテデータも分析した。
すでに医療サービスを利用していた女性を考慮に入れた後でも、所得増加の影響を受けた女性たちの医療支出は依然として低いままであった。
これは、女性が医療を軽視していることを意味するわけではない。
むしろ、女性たちは追加所得を利用して、将来的な医療への依存を減らす方向へと家計の優先順位を再編成している可能性を示唆している。
経済学者たちは以前から、「誰が所得を得るのか」が重要であることを認識してきた。
エスター・デュフロ(Esther Duflo)やアビジット・バネルジー(Abhijit Banerjee)による研究は、女性に資源を配分すると家計支出のパターンが変化することを繰り返し示している。
女性への所得移転は、教育、栄養、子どもの福祉への投資をより大きく促進する傾向があるのだ。
今回の新たな研究成果は、この知見を医療分野へと拡張するものである。
女性は健康について、より長期的な視点で考える傾向にある。
病気になってから対応するのではなく、高額な医療問題へと発展する前に健康リスクを減らすための投資を行う傾向が強いのである。
この行動変化は、医療費の自己負担が依然として医療財源の大きな割合を占めているインドにおいて、極めて重要な意味を持つ。
インドの人口ボーナスを生かすためには、女性の雇用を創出するだけでは不十分である。
女性の経済参加の拡大が、より健康な家族へと結びつくことが必要である。
もし女性の所得増加が、栄養、予防医療、そしてより健康的な生活習慣への家計投資を変化させるのであれば、雇用政策はそのまま健康政策にもなる。
女性の経済的な主体性を高める政策は、労働市場を超えた広範な利益を生み出す可能性がある。
また、それはすでに大きな負担を抱えるインドの医療システムへの圧力を軽減することにもつながるだろう。
この数十年にわたり、経済学者たちは医療が必需品なのか、それともぜいたく品なのかを議論してきた。
しかし、それよりも重要な問いは、世帯が「医療サービスを購入すること」に投資しているのか、それとも「健康を創り出すこと」に投資しているのか、という点なのかもしれない。
この区別は重要である。
なぜなら、医療支出だけでは健康状態を完全に測ることはできないからである。
医薬品や診察への支出が減少したことが、必ずしも健康管理の放棄を意味するわけではなく、治療を必要とする病気そのものが減少したことを反映している場合もある。
インドの発展戦略は、予防医療と健康的な生活習慣を重視しているが、その議論には、女性の経済的エンパワーメントを加えなければならないだろう。
女性の所得が増えると、単に支出が増えるだけでなく、支出の仕方そのものが変わるのである。
そして、その意思決定こそが、静かに、しかし確実に、インドの公衆衛生における最も重要な投資の一つを形成していくのかもしれない。
※フォーマル化: 現金取引や非登録事業などの非公式経済活動が、納税や社会保険加入を伴う公式経済へ移行すること。
※Oxford Open Economics: Oxford University Pressが発行するオープンアクセスの査読付き経済学学術誌。
※Ayushman Bharat: 2018年に開始されたインド政府の公的医療保障制度で、低所得層を対象に入院医療費などを支援する世界最大級の医療保険制度。
※フォーマルセクター: 企業登録や納税、社会保険加入などが制度的に整備された公式経済部門。対義語はインフォーマルセクター(非公式部門)。
※従業員積立基金(Employees’ Provident Fund): インドの民間企業などで働く被雇用者を対象とした公的な退職積立制度。労使双方が給与の一定割合を積み立て、退職後の生活保障や年金給付の原資とする。

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