氷河上の氷塊崩壊、想定以上の洪水リスク: ISRO研究

 

Posted on 17 Mar 2026 21:00 in インド科学技術 by Yoko Deshmukh

北には世界の屋根を頂いているんだもんね、インドは広いわけです。



「The Hindu」に、ことし3月はじめに発表された研究結果としての、氷河の融解および崩壊に伴う洪水への警鐘を説明するミーナ・メノン(Meena Menon)氏の寄稿が掲載されていた。

Ice patches on melting glaciers greater threat than thought: ISRO scientists

インド宇宙研究機関(Indian Space Research Organisation、ISRO)の科学者による新たな研究が、学術誌「NPJ Natural Hazards」に掲載された。
この研究は、2025年8月5日にウッタラーカンド州のダラリ(Dharali)村を襲い、6名の命を奪った鉄砲水について分析している。
温暖化が氷河、特に後退する氷河上の露出した氷塊にどのような影響を与えるかを明らかにすることで、衛星画像を用いた氷河監視による災害の早期警報が可能になると期待されている。

「Ice-patch collapse and early-warning implications from a Himalayan flash flood: emerging cryo-hydrological hazards under deglaciation」と題されたこの研究は、ダラリ村上空の氷河上の氷塊崩壊が、ヒマラヤの氷河後退と関連していると結論付けている。

同研究によると、鉄砲水はスリカンダ(Srikanda)氷河の雪食地帯における氷塊崩壊によって引き起こされたことが明らかになっている。

雪食とは、雪堤の下や周囲の地面が、凍結と融解を繰り返すことによって侵食される現象を指す。
これにより雪窪が形成され、同じ場所に雪が繰り返し積もることで、窪地が徐々に深くなっていく。

本研究の対象地域は、ウッタラーカンド州ウッタルカーシー(Uttarkashi)県に位置するバギラティ(Bhagirathi)川上流域にある。
この地域は、スリカンダ氷河から標高およそ2,700m地点にあるダラリ村に至るまでの、尾根から谷へと連なる地形システムを網羅する。

ダラリ村は、スリカンダ氷河を源流とし、村内を流れ抜けてバギラティ川に合流する、氷河由来の「キール・ガド(Khir Gad)」沢の下流側に位置する。
このキール・ガド沢はダラリ村の右岸側と左岸側の集落へ分岐するため、その存在が村における鉄砲水のリスクを高める要因となっている。

この地域は、2013年6月に発生したヒマラヤ大洪水において巨大な岩塊を押し流した大規模な地滑りなど、極端な自然現象に繰り返し見舞われてきた。
研究チームは、衛星観測データ、高解像度の地形解析、および視覚的な記録資料を駆使し、不安定化した氷河氷が突発的な洪水へとつながる事象を時系列で再現した。
その結果、ヒマラヤ地域においてこれまで認識されてきた氷河関連災害の範囲を拡張する知見が得られ、氷河の融解に伴うリスクとして、地表に露出した氷塊が、これまで十分に認識されていなかった潜在的な危険要因であることが特定された。

ダラリ氷河の事例は、氷圏の不安定性が高地の下流域にどのような危険をもたらすかを示している。

この研究は、氷河の監視を綿密に行う必要性を指摘するとともに、監視対象を氷河湖決壊洪水(glacial lake outburst floods、GLOF)だけでなく、見過ごされがちな小規模な氷圏の不安定性にも広げるべきだと主張している。

洪水発生前には、スリカンダ氷河で氷塊が露出していたことが指摘されている。
これについて論文の著者らは、「融解期における洪水発生前の画像から、北から北東向きの急斜面に氷塊が露出していることが明らかになった。これは、進行中の氷河融解に伴う季節積雪と万年雪(firn)の被覆の薄化を示している」と述べている。

このような露出は、季節積雪と万年雪の薄化を示しており、通常は温暖化によって氷を安定させる断熱層である積雪層が減少する際に発生する。

万年雪や季節的な積雪に覆われた氷塊は、短期的な気温変動に対して比較的強い耐性を示すが、露出した氷は気温の変化や激しい降雨によって動きやすく、緩みやすい傾向にあり、融解、破砕、あるいは崩壊の危険性が高まる。
その結果として氷塊、融解水、および岩屑が放出され、鉄砲水を引き起こす要因となり得る。

スリカンダ氷河は、標高6,133mの中小規模な谷氷河であり、ダラリ村の約9.8km上流に位置している。
この氷河は、急峻な集積帯および摩耗帯、季節的な積雪、そして広範囲にわたる雪食帯を特徴とする。

本研究の重要な示唆としては、早期警戒体制を構築する上で、事前の衛星観測がいかに有益であるかという点である。
衛星画像からは、氷河が氷や雪を失う「融解期」においても、雪食地帯に露出した氷塊が残存し続けている様子が捉えられ、その地点における季節性の積雪や万年雪の被覆が薄くなっていたことが示されていた。

カナダ北極圏やグリーンランドを含む他の寒冷地域における研究でも、地域的な温暖化によって氷河の氷や雪の減少が進むにつれ、こうした氷塊の崩壊が災害を引き起こす引き金となり得ることが報告されている。

本研究は、ヒマラヤ地域においてこうした事例が報告されることは稀であるものの、2021年2月に発生したチャモリ(Chamoli)での岩石・氷雪崩れのような災害は、氷河の後退が進む地形において、雪氷圏に起因する災害(cryo-hydrological hazards)*が激甚化しつつあることを如実に示していると指摘する。
急峻な雪窪においては、こうした不安定性が突発的に氷や融解水、岩屑などを一気に押し流し、斜面下方向への土砂移動や、それに伴う災害を引き起こす恐れがある。

ミーナ・メノン(Meena Menon)氏:
独立ジャーナリストであり研究者、および著述家。リーズ大学にて博士号を取得。
cryo-hydrological hazards: 
雪氷圏の融解や崩壊に伴って発生する洪水や土砂災害などの自然災害。
 

ASKSiddhiは、Noteでも記事をアップしています。
今後メンバーシップを利用した企画なども考えていますので、
よろしければフォローしてみてください。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



Share it with


User Comments

Leave a Comment..

Name * Email Id * Comment *