いつも市井の人々の声を丁寧に拾い上げている「The Scroll」で、ガス不足に翻弄される食堂経営者の様子が克明に記録されていたので、内容を抄訳したい。
From weddings to funerals, Iran war has hit life in India
過去2週間の間に、ドゥルヴ・チャクラヴァルティ(Dhruv Chakravarty)氏は、液化石油ガス(LPG)の不足に伴う予約のキャンセルにより、自身のケータリング会社が70万〜80万ルピーの損失を被ったと試算している。
デリー南西部にある家族経営のケータリング会社「Vastavika Caterers」は、結婚式、誕生日パーティー、企業イベントなどのケータリングを手掛けている。
同氏は、業務用ガスボンベの深刻な不足により、新規の予約受け付けを停止せざるを得なくなった。
業務用ボンベがなければ、結婚式のケータリング業務を行うことは不可能だからである。
「事態が早急に収束することを願っています。ホーリー祭*の時期は順調に仕事がありましたが、今はイード(断食明けの祝日)が近づいてきているのに、どうなるか見通せない状況です」と訴える同氏によれば、ほかにも数多くのケータリング業者がイベントを中止したり、予約を4月以降に延期したりしているという。
インドは石油と天然ガスの供給を、ホルムズ海峡を経由する輸送船に依存している。
デリーを拠点とする別のケータリング業者(匿名希望)は、ガスボンベが買い占められ、闇市場で転売されている現状を懸念している。
「この戦争がいつまで続くか分からないという不透明感が、多くの人々にパニックを引き起こし、事態をさらに悪化させているのです」と語った。
『Scroll』の取材に応じたほかのケータリング業者たちも、窮余の策として、顧客に対し家庭用ガスボンベを自参するよう依頼しているケースがあると明かした。
こうした行為は本来、違法とされている。
政府が家庭用ガス供給を最優先とした結果、それ以外の分野で不足が生じている。
プネーでは、火葬場でもガス不足の懸念から、薪燃料への切り替えを余儀なくされる可能性があると、『The Indian Express』紙が報じた。
ケーララ州では、コジコデの公営火葬場が火曜日にガス切れを起こし、3件の予約受け付けを断らざるを得ない事態となったと、『Manorama』紙が報じた。
同火葬場では月に平均120本の業務用ガスボンベを必要とし、1日あたり4本近くを消費している。
しかし最も深刻な打撃を受けているのは、レストランやダバ(大衆食堂)、ティフィン・サービス(弁当配達業者)、そして路上の屋台といった飲食業者である。
低コストを維持することで、貧しい出稼ぎ労働者たちに食事を提供しているためである。
ムンバイでは、ある業者がライスとアチャール(漬物)しか提供できなくなった一方で、別の業者はチャパティを1枚5ルピーで外部から購入せざるを得なくなり、調達コストが高騰している。
代替燃料として、土や木材を燃料とする昔ながらのオーブンの導入を検討している業者もある。
グワハティで屋台を経営するデボジット・セナパティ(Debojit Senapati)氏は、ここ3日間にわたり、営業を続けるために調理用ガスボンベの確保に奔走している。
この地域最大の病院の敷地外に店を構える同氏の屋台では、1皿60ルピー以下という手頃な価格で食事が提供されており、入院患者やその家族たちが頼っている。
「ようやく家庭用ガスボンベを1本手に入れることができましたが、その価格は通常の2倍以上にあたる1,800ルピーもしました。営業を続けるには少なくとも1日1本のボンベが必要ですが、今日はボンベが手に入らなかったので、午後の営業を切り上げて店を閉めざるを得ません」と、同氏は『Scroll』誌の取材に対して語った。
同氏によれば、自身の屋台からの収入を頼りに5人家族を養い、自宅の家賃として月額8,000ルピーを支払ってきた。
「1日の収入は、せいぜい2,000〜3,000ルピー程度しかありません。この状況が長引けば、家計をやり繰りしていくのは困難になるばかりか、1日1人あたり300〜400ルピーの賃金を支払っている5人の従業員にも、故郷に帰ってもらうしかなくなるでしょう」と訴える。
ムンバイの建設現場では、地方から出てきた多くの労働者が敷地内や路上で寝泊まりしている。
あるマンションの警備員は「昨日は何も口にせず、そのまま寝ました。今日はすぐ近くの食堂に行ってみたのですが、出せるのはライスとアチャールだけだと言われましたね」と語る。
近隣の建設現場で警備員を務める別の男性は、コンロと5キロ入りのガスボンベを使って自炊をしている。
このボンベは毎月500ルピーで購入しているものだ。
ところが5日前にガスを切らしてしまい、以来、外食で済ませている。
その結果、食費は突然2倍以上に跳ね上がってしまった。
「ターリー(定食)一食につき80ルピーもかかっています。これまで月収1万7,000ルピーのうち、ガスボンベ代や食料品代を含めた食費全体を、通常は2,000ルピー以内に収めることができていたが、もしガスの不足状態がこのまま続けば、月々の食費は4,800ルピーにまで膨れ上がってしまうことになります」と話している。
中心部の労働者階級に手頃な価格の食事を提供する「メス(大衆食堂)」や「ティフィンサービス」は、低コストの維持に苦慮している。
シッダールト・コロニーでティフィンサービスを営むナレシュ・ヤダブ氏は、毎日100人の肉体労働者、警備員、日雇い労働者に食事を提供している。
ナレシュ・ヤダブ(Naresh Yadav)氏は、毎月23キロ入りのガスボンベを1本必要としている。
「先週末、ガスが切れてしまったのですが、どこを探してもボンベが見つからなかったのです。貧しい労働者たちに通常よりも割安な価格で食事を提供しているのですが、ガスがないため別の業者からチャパティを1枚あたり5ルピーで購入せざるを得なくなりました。ですが、多くの人にはそんな金額は払えません。食事一式が50ルピーで済む中、チャパティたった6枚に30ルピーも支払うというのは、あまりにも大きな負担なのです」と説明する。
ジャールカンド州ラーンチーで屋台を経営する男性は、ガス不足によりメニューを縮小している一方、IH調理器の導入も選択肢の一つとして検討しているが、夏場に頻発する停電のことを考えると確信が持てず、踏み切れないでいるという。
ラーンチーから2時間ほど離れたクンティ(Khunti)という村でファームステイ(農泊施設)を経営するカピル・トッポ(Kapil Toppo)氏は、土で作られた薪かまどに切り替える計画を立てている。
「週に10〜30人のお客様を受け入れているため、1か月に3〜4本のガスボンベが必要でした。ファームステイを建設した際、念のためにと土のかまどを作っておいたものの、これまで実際に使うことは一度もなかったのです。ジャールカンド州の農村部では、今なお多くの住民が調理の燃料として薪や石炭に頼っています。もしLPGの不足が続くようなら、こうした昔ながらの燃料こそが唯一の選択肢となってしまうかもしれません。ですが、これらは環境汚染を引き起こしやすい代替手段でもあるのです」と同氏は語る。
*ホーリー祭(Holi)
ヒンドゥー教の春祭りで、色粉や色水を掛け合いながら春の訪れと豊穣を祝う行事。インド各地で祝われる代表的な祭礼のひとつ。

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