インドのドラァグ・シーン: クィア文化から新たなキャリアへ

 

Posted on 15 Mar 2026 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

真剣に生きることしか選択肢がないように見えるからこそ、衝撃的なのだろうな。



インドのドラァグ・シーンが急速に進化を遂げている、との記事を、「The Hindu」に見つけたので、要約を抄訳したい。

Queer ambition finds a home in India’s vibrant drag scene

ドラァグは芸術であり、同時に抗議活動でもある。
それは、性別を演劇的に解体するものであり、アーティストは華やかなメイクやウィッグ、きらびやかなコルセットや衣装、とてつもなく高いヒールといった誇張された美のアピールを用いて、社会規範を風刺する。
この芸術形式は、歌舞伎の女形からベンガル・オリヤーのジャトラ(jatra)俳優まで、何世紀にもわたって存在してきた。
今や商業的に爆発的な成長を遂げているが、そのきっかけとなったのは、アメリカのドラァグ界におけるアイコン、ルポール(RuPaul)が司会を務めるエミー賞受賞のリアリティコンペティション番組、「RuPaul’s Drag Race」であろう。
この番組により、ドラァグは「クィアの聖域」という狭い領域から、実現可能なキャリアパスを描くことのできる世界的な現象へと変貌した。

インドにおけるドラァグ・シーンも、「アンダーグラウンドから主流へ」と移行しつつある。

この変化に大きく貢献しているのは、ステージネーム「シャクティ」を名乗るインド初のドラァグ・キング(drag king)*、ドゥルガ・ガウデ(Durga Gawde)や、2020年にフォーブス誌の「30歳未満のアジアの30人」リストにインド人ドラァグ・パフォーマーとして初めて選出され、リアリティ番組や映画に出演するなどメインストリーム文化の壁を打ち破ってきたスシャント・ディヴギカール(Sushant Divgikar、別名ラニ・コーヘヌール)などの著名アーティストである。

こうした「先人」たちはまた、インドの伝統的な「ガラナ(gharana)」*文化とヒジュラー(Hijra)*たちの風俗からインスピレーションを得て、コミュニティづくりの一環としてのドラァグ・ハウス(drag house)*を立ち上げ、パフォーマーにとって重要な支援を提供している。

代表的なものとして、ディヴギカールが設立した「ハウス・オブ・コヘヌール(Hauz of KoHEnur)」がある。
同ハウス初のドラァグ・チャイルド(drag child)*となり、インドにおけるドラァグ・キングの台頭に重要な役割を果たしたドゥルガ・ガウデをはじめ、多くのドラァグ・アーティストを指導している。

ドラァグ・ハウスは、ドラァグ・パフォーマーやクィア・クリエイターにとって、いわば家族のような存在である。
そこでは、経験豊富な「マザー」または「ファーザー」が中心となり、「子どもたち」と呼ばれる若いアーティストのペルソナ解明を含めて指導する。
ドラァグ・ハウスは、住居、コミュニティ、ケア、そしてメイクや振り付けのトレーニング、ギグ・エコノミーでの活動支援、医療、メンタルヘルス、法律相談へのアクセスなど、さまざまなサポートを提供することで、アーティストの成長と個人の福祉も育んでいる。
同時に、帰属意識とコミュニティ意識を育み、「子どもたち」が成長し、進化し、時には自分の道を歩んだり、新しいハウスを見つけたりすることを自然な流れとして受け入れ、励ます。

こうしたドラァグ・ハウスのほとんどは、ムンバイーやデリーといった大都市に集中している。
コルカタ、チェンナイ、ベンガルール、ハイデラバードなどの都市でもドラァグ・パフォーマーの数は増えているが、規模は小さく、クイーンたちは正式なハウス組織を持たずに緊密な姉妹関係を築き、互いに支え合っている。

インドにおけるドラァグは現在、芸術形式、抗議活動、そしてジェンダー意識向上のためのツールとして認知されるようになり、アーティストたちは多様な会場でパフォーマンスを行い、ファッションブランドとコラボレーションし、デジタルプラットフォームを活用してインド全土で「性自認の流動性(gender fluidity)」を分かりやすく伝えている。

では、インドのドラァグ・シーンは、どのようにメインストリーム文化に溶け込んできたのか。
海外のドラァグ・クイーンのツアー、国内スターの雑誌表紙への起用、LGBTQ+コミュニティ以外の会場での「Superqueens: the Musical」のようなドラァグ・ショーの上演、大規模フェスティバルでのパフォーマンス、そしてファッション業界とのコラボレーションなどが挙げられる。
インドにおけるドラァグ・パフォーマンスの平均的な報酬は、1回あたり約5,000ルピーから60,000ルピー以上まで幅広く、アーティストにとって安定したキャリアパスとなっている。

インドでは、ドラァグはインクルージョン(包摂)とジェンダー意識向上のためのツールとして活用されている。
パフォーマーの中には、グローバル企業向けにジェンダー意識向上と無意識の偏見に関する企業研修を請け負う者もいる。
デジタルプラットフォームではインドのドラァグの歴史が記録され、アーティストたちはソーシャルメディアを活用して、大衆に性自認の流動性を分かりやすく伝えようと試みている。

drag king(ドラァグ・キング)*
女性またはノンバイナリーのパフォーマーが、誇張された男性的な外見や振る舞いを演じるドラァグ・パフォーマンスの一形態。
gharana(ガラナ)*
インド古典音楽や舞踊で、特定の師弟関係や地域に基づいて受け継がれてきた芸術的流派・伝統。
Hijra(ヒジュラー)*
インドや南アジアに古くから存在する第三の性とされるコミュニティで、宗教儀礼や祝福の役割を担う文化的伝統を持つ。
drag house(ドラァグ・ハウス)*
経験豊富なドラァグ・パフォーマーを中心に、若いパフォーマーを育成し支援するコミュニティ組織。
drag child(ドラァグ・チャイルド)*
ドラァグ・ハウスに所属し、マザーやファーザーと呼ばれる指導者のもとで育成される若いドラァグ・パフォーマー。

 

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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