インド地震ゾーニング改訂撤回: 科学とコストのはざまで
Posted on 12 Mar 2026 21:00 in インド科学技術 by Yoko Deshmukh
この決定が大きな後悔につながらなければいいけど。
東日本大震災から15年を迎えた11日の翌日、くしくも「The Hindu」社説ではインドにおける地震ゾーニングの改訂を撤回する決定について綴られていた。
A seismic decision: On revision to India’s earthquake zoning, rollback
インド規格局(Bureau of Indian Standards、BIS)によるインドの地震ゾーニング(earthquake zoning)改訂案を中央政府が撤回した。
その手法に対する大きな異議申し立てを受けたものである。
一部の技術者は、この手法が現地評価と整合していないと考えているが、実際には、この撤回の主な要因は、莫大な費用と実行上の影響である。
この決定が都市計画、災害対策、そして気候変動へのレジリエンス(強靭性)に影響を及ぼすためである。
インドが都市インフラの拡張を進める中で、今回の地震ゾーニングは、都市景観、電力インフラ、ダム、高速道路、そして住宅やオフィスを災害や気候変動に強いものにする機会となる。
ゾーニングの枠組みを正しく策定することは、これまで以上に重要になっている。
議論の核心は、起こりうる地震とその震度に関する科学的な近似値と、それに耐える建築環境の備えにある。
世界的に、先進国や地震活動の活発な地域では現在、確率論的地震ハザード評価(Probabilistic Seismic Hazard Assessment、PSHA)を使用している。
これは、地盤動の確率ベースのシミュレーションを通じて地震リスクをモデル化する動的フレームワークである。
一方インドはこれまで、より単純な固定ゾーニングモデル(fixed zoning model)を主に使用してきた。
したがって、世界的に受け入れられているフレームワークに移行しようとするBISの試みは、方向としては正しい。
しかし、構造エンジニアや政策立案者の中には、2025年11月に通知され、3月3日に撤回された改訂は厳しすぎると主張している。
提案されたフレームワークは、カシミールの大部分、ヒマラヤベルトの一部、グジャラート州のカッチ、および北東部をカバーする、新たな最高リスクカテゴリーであるゾーンVI*を導入した。
都市計画者らは、こうしたゾーニングによって、すでに経済的に脆弱な地域での開発やインフラ整備が停滞し、インドの住宅の約80%を占める非公式セクターにさらに多くの住宅が流入する可能性があると懸念している。
推定によると、1つのゾーンを増やすだけでコストが約20%、2つのゾーンを増やすと約3分の1増加する可能性がある。
都市交通(Metro)システム、ダム、発電所といった主要インフラの場合、コストへの影響はさらに大きくなる。
BISの改訂に対する反対は、民間セクターだけでなく、住宅都市開発省、内務省、中央水委員会、国立ダム安全局など政府内部からも起こっている。
この議論のもう一つの側面は気候問題である。
インドの建設セクターは、同国最大の分散型炭素排出源(dispersed sources of carbon emissions)のひとつである。
地震ゾーニングの枠組みの改訂は必要だが、省庁、規制当局、業界関係者間のより広範な協議が必要となる。
総合的かつ実行可能な枠組みのみが、災害へのレジリエンスを強化し、気候変動の緩和、経済性、そして実行上の課題に対処することができる。
*Probabilistic Seismic Hazard Assessment(PSHA)
将来の一定期間内に特定の強さの地震動が発生する確率を統計的に計算し、地域ごとの地震リスクを評価する手法。世界の多くの地震多発地域で耐震設計の基準づくりに用いられている。
*fixed zoning model(固定ゾーニングモデル)
国土をいくつかの固定された地震危険度区分(ゾーン)に分け、それぞれに一定の耐震設計基準を適用する方式。計算が比較的単純である一方、地域ごとの細かなリスク差を十分に反映しにくいとされる。
*Bureau of Indian Standards(BIS)
インド政府の国家標準機関で、建築基準、工業規格、安全基準などの国家標準(Indian Standards)を制定・管理する機関。
*earthquake zoning(地震ゾーニング)
地震発生の可能性や揺れの強さのリスクに基づき、国土を複数の危険度区分(ゾーン)に分ける制度。建築基準や都市計画の耐震設計に利用される。
*Zone VI(ゾーンVI)
提案された新しい最高危険度の地震リスク区分。従来のゾーンVよりも高い地震リスク地域として設定される想定で、より厳しい耐震設計が求められる。
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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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