「AI Impact Summit」を受けて、インドにおける人工知能(AI)技術開発の課題について論じた長文コラムが、「The Hindu」に掲載されていたので、内容を抄訳したい。
On AI, India’s enthusiasm contends with fundamental constraints
会場には50万人もの来場者があり、すべてのセッションルームを埋め尽くすほどの熱気だった。
世界数十カ国からの指導者らが、厳しく規制された交通をかき分けて参加し、サム・アルトマン(Sam Altman)*氏やダリオ・アモデイ(Dario Amodei)*氏などのAIの重鎮が基調講演を行った。
最終日にあたる20日、OpenAIはインド人がAIをどのように使用しているか、ChatGPTのプロンプトから探った情報を公開した。
それによると、同社の高度なデータ分析、ライティング、および技術ツールを活用するインド人が「能力のOverhang(オーバーハング)」、つまり最新の大規模言語モデルの機能と実際の使用目的との間のギャップをほぼ埋めたことを示唆している。
インドでは、個人的および職業的な、いずれの用途でもAIのポテンシャルに熱い注目が集まっている。
これは、インターネットの利用、LLMの企業への浸透、そしてIT業界を超えた知識労働の将来に大きな影響を与えると見られる。
AadhaarやUPIなどの実装例が示すように、インド人は、デジタル技術の使用をおおむね歓迎するか、最終的には受け入れている。
そして人口規模はまちがいなく増幅要因となっている。
ただし立ちはだかるのはインフラストラクチャである。
これまでの技術ブームでは、コストが極めて制御しやすいという特徴があった。
AadhaarとUPIの物理サーバーはインド国内にあり、システムの運用コストもたかが知れていた。
しかし、AIはそれまでのインターネットとは桁外れの電力を消費する。
AIを動かすグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)は、LLMのトレーニングと「推論」実行の両方において莫大な電力を消費し、それ自体が高価であり、しかもそのコストは運用コストに埋もれている。
インドは世界で最も人口の多い国だが、電力生産量は世界第3位で、地方の電化が実質的に完了したのはここ10年ほどだ。
電力コストは、特に再生可能エネルギー目標や、インドが2070年までに達成目標として掲げるカーボンニュートラルを考慮すると、必ず課題となる。
少なくともAIに関しては、エネルギー価格が上昇する可能性がある。
インド政府のIndiaAIミッションへの支援は、緊急の関心事である主要分野での研究支援を提供している。
例えば、Sarvam AIの350億および1,050億のパラメータモデルは、共通コンピューティング施設の恩恵を受け、政府が購入したGPUをトレーニング実行に補助金付きで利用できている。
Sarvam、BharatGen*をはじめとするイニシアチブは、国内言語におけるLLMのギャップを埋めており、これは展開に向けた重要なステップである。
うち、Sarvamのモデルはオープンソース化される予定となっているが、現時点では導入規模の把握は難しい。
インドは、先述したインターネットの広範な普及を背景に、世界第2位のAIユーザーベースを擁している。
そのため、推論コストは莫大となり、国内インフラ開発のための資金の確保が大きな課題となる。
米のハイパースケーラー(Hyperscalers)*は、データセンターへの年間支出総額を数千億ドルと推定している。
インド国内における最大のインフラ投資は、現在、その支出の拠点となっている。
つまりインドは、外国のデータセンター、あるいは外国所有のデータセンターを通じて、推論を輸入するだけの国であり続けるリスクがある。
国家を挙げた半導体ミッションとハードウェア組立を誘致するイニシアチブは、概ね効率的に実行されている。
スマートフォンは現在、インドで最も価値の高い輸出品に入り、国内に部品製造エコシステムが形成されつつある。
生産連動型インセンティブ(PLI)スキームにより、グジャーラート州にマイクロン(Micron)のパッケージング工場を誘致したほか、国内でのITハードウェアおよびサブアセンブリへ、多くの企業の関心を集めている。
一方、電子機器製造のエコシステムは、歴史的および経済的な理由が重なり、中国への過度な依存から生じる不安定な結果を回避しようとする多国籍企業による、リスク回避ヘッジ以上の戦略的影響力を持つ主力ではない。
インフラの国産化に重要な半導体および電子機器の製造能力が確立されるには数十年かかる。
まさに今が正念場である。
AIが知識労働を大規模に安価なものに置き換えるなど、世界経済を不可逆的に作り変えてしまうことになれば、インドで数十年にわたり行われてきた産業政策が、早々に衝突することになるかもしれない。
AI開発者の言うことを信じるならば、この変革の最も重要な時期、つまり今後2年間に、インドは米国と直接対峙することになる。
インドのAIエコシステムに構造的な兆しがあるとすれば、それは人的資本である。
シリコンバレーのイノベーションの多くは、海外からの優秀な人材、特にインド出身者の継続的な流入によって実現してきた。
大手テック企業の経営幹部らの出身国*すら、このことを証言している。
過去の世代の頭脳流出と同様に、これは一長一短である。
今後は海外に流出した人材からの送金に頼るのではなく、優秀な人材を国内で確保するために、競争力のある賃金を支払うための投資意欲と、将来世代に母国を選んでもらえるような生活の質を提供することが不可欠である。
以上はAIとチップ研究の分野における現象であるが、IT業界ではClaude*の最新モデル、すなわち人間のプログラマーが1日かけて行う作業を数分で実行する能力が投資家を動揺させている。
IT業界に籍を置くことが、これまでのように中流階級への片道切符になってきた時代は終わるのかもしれない。
注記(*)
サム・アルトマン(Sam Altman): 米国の起業家。OpenAIのCEO。
ダリオ・アモデイ(Dario Amodei): AI研究者。Anthropicの共同創業者・CEO。
Aadhaar: インド政府が導入した生体認証付きの国民識別番号制度。
UPI: インドの即時電子決済システム(Unified Payments Interface)。
Sarvam AI: インドのAIスタートアップ。大規模言語モデルを開発。
パラメータモデル: ニューラルネットワークにおける重み(パラメータ)の数で規模を示すAIモデル。
BharatGen: インドの公的支援のもと進められる生成AI関連イニシアチブ。
ハイパースケーラー: 大規模クラウドやデータセンターを運営する巨大IT企業。
Claude: 米国Anthropic社が開発する大規模言語モデル。

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