「バズ」の対象としてのインド
Posted on 22 Jan 2026 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh
それにしても、国内でもタブーな人種差別を、ましてや国外でやってしまう愚かさよ。
この数か月、日本からインドを訪れる、いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれる人びとの振る舞いが、立て続けに波紋を広げている。
日本国内からの批判と、インド国内からの反発。
そのどちらにも触れながら、わたしは、やや「高みの見物」のような態度で事態を眺めている。
たとえば、エア・インディア(Air India)に搭乗して訪印した日本人YouTuberによる発言が「人種差別的だ」として炎上した件では、「The Times of India」の記事に多数の読者コメントが寄せられていた。
その中には、「われわれ(インド人)に公共のマナー(civic sense)が欠けているのは事実だ。他者の批判に憤る前に、グローバルシチズンとしての自らの行動を省みるべきだ」とする声も少なくなかった。
‘Packed with Indians’_ Japanese YouTuber Ikechan stirs row with 'racist' comment aboard Air India flight - The Times of India
一方、昨年のクリスマスにウッタル・プラデーシュ州にあるヒンドゥー教の聖地、ヴァラナシ(Varanasi)のガートで(ここでは詳細に言及しないが)耳目を疑う行為に及んだ日本人観光客が、周囲の人びとに囲まれ謝罪を求められた出来事については、「Mint」をはじめとするインド各紙が、かれらの常軌を逸した行動以上に「海外からの訪問者」を集団で取り囲み、恐怖を与えた現地側の行動を問題視する論調を取っていた。
その意味を、渡航した当事者や関係者はもう一度考える必要があるのではないかと思わされる。
Japanese tourists wearing Santa caps, swimwear made to apologise on Christmas at Varanasi ghat_ 'This is our Holy river' _ Today News
また、日本航空が成田―デリー線を増便するのに合わせて「ゼロ泊パッケージ」を打ち出した際、SNS上では「インドは滞在が長いほどメンタルが削られる国だ」とか、「ゼロ泊でじゅうぶんな国だ」といった反応が散見された。
インドを訪れたことがある、あるいは住んだ経験のある人は、在住歴の長いわたしに向かって「あんな国にそんな年数いるなんて尊敬に値する」という、称賛のようでいて思い切り失礼なことを、悪気もなく口にする。
インド滞在は、罰ゲームなのだろうか。
少なからぬ駐在員が、帰国の日を指折り数えて待っているという話は、もはやスタンダードである。
もちろん、そこには個別に諸事情があるのだろうから、とやかく言うつもりはない。
20年以上のインド生活の中で、苦しいこと、悲しいこと、腹立たしいこと、失敗や失望は数え切れないほど経験してきた。
わたしの住むプネーには、日本のように美しい四季の移ろいがなく、それを惜しく思う気持ちがあるのも正直なところだ。
それでも、日本で暮らしていてもそうであるように、日々の生活の中には、ささやかな喜びや楽しさ、心に残る出会いが確かに積み重なってきた。
「なぜこのわたしが」と戸惑うほどの名誉に浴したこともある。
かすかな季節の変化を空気の匂いから感じ取り、真夏の乾いた暑さに目を細め、しとしとと、あるいは激しく降るモンスーンの雨を風雅として味わう。
そうした感性を、この土地で育んできた自分を、わたしは少し誇りに思っている。
「日本人の代表として」振る舞うほどの気概を、わたし自身が持ち合わせているわけではない。
ある人にとってインドは、「バズるためのネタ」なのかもしれないし、ある人にとっては「忌み嫌う場所」なのだろう。
しかし、わたしにとってここは、大切な人生の舞台であり、かけがえのない人びとが日々を営む国でもある。
その事実だけは、どれほど外野が騒がしくなろうとも、揺らぐことはない。
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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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