男性主導ストーリーが復権した2025年のインド映画界: BBC記事より

 

Posted on 04 Jan 2026 21:00 in エンターテインメント by Yoko Deshmukh

長きにわたる男性中心主義がそう簡単に変わるわけがないからこそ、粘り強く努力を続ける必要があるんだな。



BBCオンライン版で、ボリウッド映画が近年徐々に移行しつつあった女性中心の作風から、2025年は例外的に従来型の男性主導ストーリーが目立っていたことについて、Yasser Usman氏執筆による業界に詳しい人びとによる興味深い話を掲載していたので、内容をかいつまんで抄訳したい。

The year angry men dominated Bollywood - and what it means for India

インド映画、特にボリウッド映画界では近年、女性主人公の物語が徐々に力を持つようになり、世界的にそのイメージを一時的に塗り替え、称賛と新たな注目を集め始めていた。

しかし2025年は再び、暴力的で男性主導のアクション・スリラーが、国内の興行収入と文化的な話題を席巻した。

たとえば昨年末、国内のソーシャルメディアでは、インドとパキスタンの緊張関係を描いたスパイ・スリラー『Dhurandhar』の話題で騒然とした。
生々しい暴力とギャング政治の描写に満ちたこの作品は2025年を象徴するヒット作となり、攻撃的で男性優位の映画群の中で確固たる地位を築いた。

この傾向は、パヤル・カパディア(Payal Kapadia)監督の『All We Imagine As Light』、シュチ・タラティ(Shuchi Talati)監督の『Girls Will Be Girls』、キラン・ラオ(Kiran Rao)監督の『Laapataa Ladies』といった女性監督作品が、世界的な注目と称賛を浴びた2024年とは対照的だった。

映画評論家のマヤンク・シェカール(Mayank Shekhar)氏は、この現象を単なるトレンドではなく「真実の瞬間」と呼んだ。

豊かで深みのある女性を描いた物語が、数と人気の両方で成長するだろうという期待があった。

ところが2025年の興行収入トップ10は、歴史大作『Chhaava』からアクション・スペクタクル『War 2』まで、圧倒的な男性優位のヒーローが存在感を放つ作品が占めた。
うち5本はボリウッド作品で、パンデミックを経た回復に苦戦するヒンディー語映画業界にとってはわずかな救いとなったものの、女性監督が手がけた映画は、マラヤーラム語のスーパーヒーロー映画『Lokah』のみだった。

男性が主人公の作品はアクション・スリラーだけでなく、大ヒットしたロマンス映画『Saiyaara』しかり、『Kantara: Chapter 1』(カンナダ語)や『Mahavatar Narsimha』(複数言語吹き替え)といった神話的なスペクタクルでも、伝統的な男性英雄主義を強調する内容となっている。

トップ10のうち、今年最も議論を呼んだヒット作は『Tere Ishk Mein』だ。
怒りっぽく気まぐれな男性主人公と、彼の執着的な愛によって本来持っていた野望をあきらめる優秀な女性を描いている。
有害な男性性をロマンチックに描いているという批判があったにもかかわらず、この映画は俳優ダヌシュ(Dhanush)主演のヒンディー語作品としては最高の興行収入を記録し、世界中で15.5億ルピー以上を売り上げた。

ただし2024年は「可能性を垣間見せてくれた」と、King's College Londonで舞台芸術の教壇に立つプリヤンカ・バス(Priyanka Basu)氏は語る。

同氏は、ヒンディー語映画は歴史的に女性主人公を疎外してきたと指摘し、男性中心の映画業界では、キャスティング、賃金、機会において長年、著しい不平等が存在してきたと述べ、「たった1年でそれを変えるのは難しい。2024年のような年をもっと造り、そして女性を前面に押し出した物語をもっと増やさなければならない」と語った。

インド映画、特にボリウッドにおけるマッチョなヒーローへの執着は、1970年代のアミターブ・バッチャン(Amitabh Bachchan)主演作品に見られる「怒れる若者」のイメージにまでさかのぼる。

その後、シャー・ルク・カーン(Shah Rukh Khan)などのスーパースターがほんの短期間、ロマンティック作品にキャスティングされることがあっても、アクション満載の大作ほどのヒットは見込めなかった。

近年、この傾向はストリーミング・プラットフォームにも波及している。
かつてここは、女性中心のストーリーテリングが成功できる可能性を秘めた空間と考えられていた。
しかしメディア調査会社「Ormax」が配信中のヒンディー語番組338本を分析した最近のレポートによると、主に男性主人公のアクションや犯罪スリラーが現在、全作品の43%を占めている一方、女性主人公の作品は2022年の31%から2025年にはわずか12%に減少している。

前述のシェカール氏は「ある時点から、OTT(ストリーミング)プラットフォームは興行収入の論理を追い始め、今や映画業界のトレンドに挑戦するのではなく、それを反映するようになっている」と話す。

別の業界専門家は、この変化は映画業界の創造性の後退ではなく、観客の需要を反映していると主張する。

業界アナリストのタラン・アダルシュ(Taran Adarsh)氏は、「『Mother India』や『Pakeezah』など、女性中心の名作もあったが、伝統的にインド映画は男性主導だった。そのことに対する有害性への非難は少数の批評家によるもので、映画の運命を変えることはできない。つまり唯一重要なのは観客の評価なのだ」と語る。

一方、フェミニストの視点から女性の人身売買問題を浮き彫りにしたNetflixスリラー・ドラマ『Delhi Crime』シーズン3の共同脚本家であるアヌ・シン・チョードリー(Anu Singh Choudhary)氏は、「すべてを観客の好みに帰するのは単純化しすぎだ」と主張する。
「マッチョな大作映画は、家父長制と男性優位の社会を反映しているため、長きにわたって存在してきた。それが一夜にして変わるとは思えない。しかし世界秩序が変われば、映画も変わるはずだ」と同氏は語る。

プロデューサー、配給会社、興行会社、そして「男性スターの興行収入」は、映画の上映スクリーン数、マーケティング、認知度を左右するという、経済的な現実もある。
インディペンデント映画や女性主演映画は、特に大物スターが主演でない場合、苦戦を強いられる。

女性主演映画『Chhapaak』や『Margarita With a Straw』などを手がけた脚本家のアティカ・チョーハン(Atika Chohan)氏は、現代の映画は「パフォーマティブで過剰な女性蔑視の時代」を迎えていると述べる。

同氏は、こうした状況の一部は、2017年から2019年にかけてのMeToo運動で女性たちが求めた説明責任への反応だと考えている。
この運動は映画業界に広範にはびこる虐待行為を暴き出したが、その影響は一様ではなかった。
告発された人の中には一時的な打撃を受けた者もいたが、大半は職場復帰し、構造的な力関係の不均衡は依然として残っている。

「こうした(男性優位の)映画が利益を上げ続ける限り、衰退することはない」とチョーハン氏は語る。

主に小規模な地方映画産業や独立系映画製作者たちの仕事ぶりから、希望の兆しは見えている。

前述のチョードリー氏は、インドの新世代の独立系映画製作者たちは、「大衆向けエンターテインメント」ではなく、「心を掴む、現実感のある映画」を作っていると指摘する。

同氏が挙げるのは、『Sabar Bonda』や『Songs of Forgotten Trees』といった、複雑な社会・政治の層を掘り下げ、繊細な人間関係を描く先鋭的なインディーズ映画、そして有害な関係に苦しむ女性が自らを解放していく物語を描くテルグ語映画『The Girlfriend』、女性の視点を通して描かれたタミル語作品『Bad Girl』だ。

マラヤーラム語映画では、『Feminichi Fathima』が、家父長制に対するイスラム教徒の主婦の静かな反抗を、ユーモアを交えながら描いている。
ストリーミング配信では、『The Great Shamsuddin Family』が、現代のイスラム教徒女性の日々の困難を捉えているとして、高く評価されている。

「これは静かなムーブメントであり、周縁から影響を与え続けている。それは決して消えることはないだろう」とチョードリー氏は語っている。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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