ミゾラム鉄道開通: インド「Act East」政策の新たな前進

 

Posted on 04 Aug 2025 21:00 in インドの政治 by Yoko Deshmukh

いまはとても困難に見えるけど、もしも実現したら、南アジアから東南アジアにかけての人や物の流れが劇的に変化するのだろうな。画像は「Dimapur Government College Journal, Vol. X, Issue 1 (Dec) 2024」より。



ミゾラム鉄道の開通を機とした、「Act East」政策の現在とその背景を説明する記事を興味深く読んだ。

How will the railway to Sairang help in regional connectivity? | Explained

インド鉄道(Indian Railways)は最近、ミゾラム州の州都アイザウルから18キロメートル手前に位置するサイラン(Sairang)まで、総延長51.38キロメートルの新たな鉄道路線を開通させた。
この新線は、東南アジアとの間で鉄道と道路の連結を構想するインド政府の「Act East」政策への期待を高めるものとして注目を集めている。

ミゾラム州の鉄道プロジェクトはいつ始まったのか

かつてミゾラム州には、同州コラシブ県バイラビ(Bairabi)とアッサム州シルチャール(Silchar)を結ぶ1.5キロメートルのメートル軌間鉄道(metre gauge railway track)が存在していた。
2000年に軌間変換プロジェクトが認可され、それに伴い新たな建設計画が進められることとなった。今回のサイランへの延伸工事は2008年度に始まったが、悪天候、地滑りの多発する複雑な地形、人手不足、建設資材の輸送困難といった課題により、工事の進捗は長年にわたり遅延した。

本計画により、北東部の州都すべてが鉄道網に接続されることとなった。
サイラン駅は、州都アイザウルから18キロメートル手前に位置し、2025年6月に安全認可を取得済みである。正式開通が予定されるバイラビ〜サイラン区間には、総延長12.85キロメートルのトンネル48本と橋142本が含まれている。

総工費は502億ルピーを超え、2023年8月には建設中の橋梁が崩落し、最も高い橋脚の一部が崩壊。18人の作業員が死亡する痛ましい事故も発生した。

プロジェクトの意義とは

内陸に位置するミゾラム州と他地域を結ぶ最速の手段は現在、航空路線である。
次点は、サイラン経由で結ぶアイザウル〜シルチャール間の高速道路だが、所要時間は最低でも5時間を要する。

今後、サイラン鉄道終点から発着予定の列車(計画中のラージダーニ・エクスプレスなど)は、移動時間を約1.5時間に短縮し、輸送コストも大幅に削減される見込みだ。
鉄道関係者は、観光の促進、州内外の貿易拡大、そしてトラック依存度の高い貨物輸送の大幅な改善こそが、本プロジェクト最大の成果になると語る。

サイラン鉄道終点は、「Act East」政策において戦略的に重要な位置づけを有するとされる。鉄道と道路の連結によって、東南アジア諸国連合(ASEAN)や東アジア諸国との貿易を促進し、外交・経済関係の深化、安全保障協力の強化が期待されている。
また、インドが支援するミャンマー・シットウェ港からの貨物積み替え拠点としての役割も見込まれている。

「Act East」政策とは何か

「Act East」政策は、2014年にナレンドラ・モーディー首相によって打ち出された。
1991年に国民会議派政権下で発足した「Look East」政策の発展型であり、より積極的かつ包括的な経済・安全保障戦略として、インド北東部をASEAN圏への玄関口として発展させることを主目標としている。
公式データによれば、中央政府によるこの地域への予算配分は、2014年度の3,610.8億ルピーから2024年度には1兆ルピー超へと約300%増加した。

この10年間で、総延長1万キロメートルを超える高速道路、800キロメートルの鉄道網、8つの新空港が建設され、内陸水路プロジェクトも複数始動している。
鉄道による東南アジアとの接続において鍵となるのが、ナガランド州ディマプール〜ズブザ(コヒマ近郊)間82.5キロの鉄道プロジェクト、マニプール州インパール〜モレ計画、アッサム州からコヒマ・インパールを経由してモレへと至る「アジアハイウェイ1号線(Asian Highway 1)」である。

現在、ナガランド州のプロジェクトは順調に進んでいるが、マニプール州で続く民族紛争の影響により、インパール〜モレ間の鉄道計画は停滞している。
また、北東部と東南アジアを結ぶ接続プロジェクトの多くは、近隣諸国における情勢不安を背景に、インド国境を越えての進展が見られない状況である。

事実、2021年2月のミャンマー軍事クーデター以降、同国は内戦状態に陥り、さらに2024年8月にはバングラデシュにおいてシェイク・ハシナ政権が崩壊するなど、「Act East」政策の実行は著しく制限されている。

トリプラ州アガルタラとバングラデシュ・アカウラを結び、チッタゴン港およびコルカタへの迅速なアクセスを提供する予定だった鉄道プロジェクトも停滞している。
中でも最大の障害とされるのが、ミゾラム州〜コルカタ間の距離を1,000キロメートル短縮する計画で進められていた、ミャンマー国内のカラダン複合一貫輸送プロジェクトである。総予算290.4億ルピーを投じていたが、進行は著しく遅れている。

 






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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