1か月経っても消えない余韻を残す作品『All We Imagine As Light』

 

Posted on 26 Jul 2025 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh

「The Lunch Box」を思い起こさせるような、視聴後に温かな気持ちになる作品でした。



シンガポール航空機内で視聴していたのに、あれからバタバタしており、うっかり感想を述べるのを失念していた。

『All We Imagine As Light』(邦題未定)

以前、ASKSiddhiでも紹介記事(というか主演のKani Kasturiさんのサリー)を取り上げていた。

カンヌ受賞作品、ことしのアカデミー賞は Posted on 12 Jan 2025

この作品は、2024年のカンヌ国際映画祭・コンペティション部門にて正式出品され、インド映画としては30年ぶりの快挙として大きな注目を集めた。
監督はパヤル・カパディア(Payal Kapadia)。
インド出身で、ドキュメンタリーとフィクションを織り交ぜた独特の映像詩を得意とする新進気鋭の監督である。

物語は、ムンバイーに暮らす2人の看護師、プラバー(Prabha)とアヌ(Anu)を中心に展開する。
プラバーは中年で落ち着いた看護師。
見合い結婚した夫はドイツで働いているが、結婚式で一度会ったきりの疎遠な仲だ。
しかし、ある日突然ベルリンから、夫からのプレゼントと思しき炊飯器が届き、内面の動揺を抱える。

アヌは若い看護師で、ムスリムの恋人との関係を周囲に隠しながら過ごしている。

ある日プラバーは、同じ病院で調理師として働くパールヴァティ(Parvaty)が、住んでいるムンバイーのアパートを追い出されることになり、それを機に帰郷する彼女に伴って、ケーララ州のどこかとおぼしき小さな海辺の町への小旅行を計画する。
それが思いがけない展開を生み、そして各自が互いの心の奥にある光と静けさに触れる契機を得る、というもの。

マラーヤラム語を基本に、ムンバイーでのシーンなどではヒンディー語。
正直「そんなことあるかいな」というシナリオだが、そのようなファンタジーとして観ても心温まる、夢のある作品である。

俳優陣ひとりひとりは、日常で出会いそうな親しみやすさを持ちながら、目や表情が忘れられない力を帯びている。
フォーカスの当たる先輩看護師役のKaniさん、後輩役のDivya Prabhaさんはもちろんのこと、同僚で調理師役のChayya Kadamさんも、Divyaさんのムスリム彼氏役のHridhu Haroonさんも、みんな一度見たら、強く印象に残るだろう。

機内スクリーンという特殊な環境で視聴して1か月近くが経つが、いまだにふとした瞬間にシーンの一コマが頭をよぎるほどの余韻を残す、希有な作品。

それは、わたしたちが普段、気づいていない、または見ようともしていない、日々のそこかしこにひそかに宿る光なのかもしれない。





      



About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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