沈黙の庭で祈る夜──オーロビンド・アーシュラム訪問記

 

Posted on 13 Jul 2025 21:00 in トラベルASKSiddhi by Yoko Deshmukh

待ち合わせまで時間をつぶしたロック・ビーチ(Rock Beach)から見た、月光に輝く海面です。



宿泊中のAirbnb(エアビーアンドビー)のホストであるShankarさんのご好意で、信者らの祈りの時間を終えた午後9時、ホワイトタウン(White Town)に位置するオーロビンド(Sri Aurobindo)のアーシュラムを案内していただいた。



Sri Aurobindo - Wikipedia
Sri Aurobindo Ashram 公式サイト
Sri Aurobindo Ashram - Wikipedia

ここは、ベンガル生まれの革命思想家で哲学者でもあるオーロビンドが、1910年にイギリス植民地当局の追及を逃れて移り住み、精神的探求を深める拠点として設立した修行場であり、彼の晩年の居宅でもある。

私語厳禁の敷地内に入る前に、門の前でShankarさんから15分ほどにわたり、オーロビンドや、彼の精神的伴侶であり「The Mother(ザ・マザー)」と呼ばれたフランス人帰依者ミラ・アルファッサ(Mirra Alfassa)の生涯について説明を受けた。
ザ・マザーは、オーロビンドの教義体系「インテグラル・ヨーガ(全的ヨーガ)」の発展と実践に多大な影響を与えた人物であり、アーシュラムの日々の運営を担いながら、後に「オーロヴィル(Auroville)」構想にもつながる思想を育んだ。

特に印象的だったのは、ザ・マザーと日本との関係についての話。
彼女は1916年から1920年にかけて日本に滞在し、その間に仏教・神道・日本文化に深く触れ、多くの書簡や日記を残している。
この経験は彼女の精神世界に大きな影響を与え、後のアーシュラムの審美的・精神的美意識にも表れているとされる。

持ち込み厳禁のスマートフォンはShankarさんに預け、履き物を脱ぎ、いざ門をくぐる。
門の上にはザ・マザーのシンボルである、車輪と蓮の花を組み合わせたような紋章がうっすらと発光していた。

The Mother’s Symbol - Auroville

敷地内のうち、訪問者がアクセスできるのは中庭のみ。
そこには、オーロビンドとザ・マザーが並んで眠るサマーディー(Samadhi)がある。
たくさんの花々で彩られた白い墓石に人びとが静かに触れ、額をつけ、思い思いに祈りを捧げていた。
わたしたちの立つ場所のすぐ脇には、地元の方とみられる体格のよいタミル系青年が墓石に伏しており、そのなんとも言えない安らかな表情と、閉じたまぶたを縁取る黒々とした長いまつげが印象的だった。

この中庭に溢れる花々の美しさは、自然や花をこよなく愛したザ・マザーの美意識と遺志を象徴するものでもある。
施設内には、ザ・マザーが晩年に横たわった寝台もそのまま残されており、今も祈りの対象となっている。

ふと目に入ったのが、オーロビンドの肖像画が飾られた星形のシンボル。
ユダヤ教のヘキサグラム(ダビデの星)にも似ていたが、調べてみるとこれはザ・マザーが象徴体系としてデザインしたもので、「ソロモンの星」からヒントを得ているものの、まったく異なる意味を持つとのこと。
円の中に四本の矢が交差するように配置され、それぞれが「Maheshwari(Wisdom)」、「Mahakali(Strength)」、「Mahalakshmi(Harmony)」、「Mahasaraswati(Perfection)」を象徴しているという(The Four Powers of the Mother)。

Sri Aurobindo’s Symbol - Savitri.in

市街地のど真ん中に位置しながらも、アーシュラムに一歩足を踏み入れた瞬間、そこはまるで別世界。
喧騒から隔絶された静寂の空間であった。
向かいにはShankarさんがフランス語教師を務める学校もあり、ポンディシェリのフランス植民地時代の記憶と精神文化が、今なお複層的に息づいていることを感じさせられた。

参考リンク:
Sri Aurobindo Ashram - Wikipedia
Sri Aurobindo Ashram Official Site - About the Mother
The Mother’s Japan Connection
Sri Aurobindo’s Symbol Explanation
 






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



Share it with


User Comments

Leave a Comment..

Name * Email Id * Comment *