IITマドラス校研究チームが尿から処理水を精製、期待される大きな商業機会
Posted on 22 May 2021 21:00 in インド科学技術 by Yoko Deshmukh
あっと驚くような発見は、意外と身近なところに落ちているのだな。(Image source: The Better India)
「The Better India」で、環境関連のイノベーションを競うコンペへの参加がきっかけで画期的なソリューションを見い出した、インド工科大学マドラス校(IIT-Madras)のとても興味深い取り組みを紹介していたので、ASKSiddhi(アスクスィッディ)でも勉強のため抄訳したい。
IIT-Madras Team Innovates Solution To Extract 90% Water From Urine & Save 10000 Litres/Day
2018年、IITマドラス校が米国大使館と共同で開催する「All-India Innovation and Entrepreneurship Contest(全インド・イノベーションおよび企業家精神コンテスト)」と呼ばれるコンテストへの準備を進める段階で、同校でチームを組んだ教授と学生は、さまざまな環境問題に対する持続可能なソリューション、特にCO2排出をゼロにする「Carbon Zero Challenge」への参加を巡りブレインストーミングしていた。
中でも地元チェンナイ出身の学生は、都市が抱える慢性的な干ばつや水不足の問題を嫌というほど経験していることから、水の浪費に対処するためのソリューションを検討することにした。
そして考案したソリューションとは、なんと「尿を水に変換する技術」という驚くべきものだった。
処理水はトイレや庭の水やり、その他、飲用以外に再利用できる。
「EcoFert」と名付けた、この独自のイノベーションでは、1,000リットルの尿から有機肥料とアンモニアを取り除き、850リットルの処理水を精製するというもので、商用化すれば、1サイクルのリサイクルで1日あたりおよそ10,000人分の消費ニーズに対応できる水を節約できるとしている。
このアイデアはコンテストで高く評価され、技術のデモンストレーションを成功させるために必要な50万ルピーを獲得、これを元手に2019年、スタートアップ企業として「Samudyoga Waste Chakra」を立ち上げることができた。
プロジェクトを技術的に統率しているディワカル・ゴヴィンダラージャン(Dhivakar Govindarajan)氏によれば、水不足の懸念はインド国内の大都市を中心として年々緊迫度を増しており、何も手を打たなければ今後数十年で地下水を含む天然の水資源が枯渇するか、排水による汚染が手の施しようのない状態になる点に着目、尿を浄化できれば年間数百万リットルの節約につながると、「The Better India」の取材に答えている。
アイデアの発案者は、チームのメンターであり、同校土木工学部で環境・水資源工学科の教授を務めるインドゥマティ・ナンビ(Indumathi Nambi)氏。
同氏は2018年に米カリフォルニア大学デービス校(University of California, Daves)を訪問した際、ある教授が尿をリサイクルするための実用的なモデルを考案しているのを見て、そのシンプルかつ効果的な方法に感銘を受け、チェンナイに戻るとすぐにそのモデルを再現すると同時に、1日も早く実用化できるよう工夫を重ねた。
ディワカル教授によると、尿は約96%が水分であり、その他は窒素、リン、カリウムなどの栄養素を含んでいる。
「控えめに計算しても、1台のトイレが20年間で消費する水の量は1,000万リットルにのぼる。自立可能な規格組み立て式トイレをソリューションの仕組みとして作れば、水の無駄(water footprint)を削減できるだけでなく、環境に配慮した化学製品を生成できる」と説明している。
そこで研究チームは、できるだけ純粋な水を回収するために、さまざまなプロセスを通じて化学物質を分離することに取り組んだ。
ディワカル教授は、次のように説明している。
「最初の段階では、水なしのトイレを設けて尿を希釈せずに回収し、タンクに集める。尿はタンク内で1日かけて、自然界に存在するバクテリアの力を借りた自然な加水分解プロセスを経る。この加水分解によって尿中の窒素を尿素、アンモニア、その他化合物に転化させる。加水分解された尿は水蒸気蒸留柱を通過し、そこで尿からアンモニアを抽出、さらに蒸気を凝縮して、およそ4パーセントの濃度のアンモニア溶液を回収する。さらにアンモニアから分離された尿はポンプでストルバイト反応器に送られ、この段階でマグネシウム塩を加える蒸留プロセスによって、尿中のリン酸マグネシウムとリン酸アンモニウムが沈殿し、ストルバイトが反応器の底に集める。ここまで来れば、すべての化学物質が分離し、塩とわずかな有機物だけが尿中に残り、尿の色は淡黄色となる。さらに脱塩と酸化のプロセスを経ることで最終的に無色になり、無害な水となるので、ガーデニングに使用したり、トイレの便器で再利用したりできるようになる。ただし飲用には適さない。」
また収集されたアンモニアは産業用に販売でき、ストルバイトは優れた天然肥料になるという。
同社では、人間の尿から得られるミネラルは、莫大な経済的価値を持つ重要な栄養素を持っていると指摘、トイレを中心とする循環経済への扉を開くと確信している。
IITマドラス校のキャンパスでは、すでに処理水をガーデニングに使用している。
また、ストルバイトも水耕栽培で数か月にわたって使用しており、品質と肥沃度をテストしている。
同社は現在、やはり水不足が深刻なマハーラーシュトラ州コーラプール(Kolhapur)の自治体(Kolhapur Municipal Corporation)の掲げるスマートシティ化への取り組みのための共同プロジェクトを落札、実用化に向けて取り組んでいる。
同社ではまた、トイレの省スペース化にも取り組んでおり、今後6 × 3フィート(1.8 x 1メートル)の狭小スペースに設置できるようにすることを目指している。
また、費用面では、1日500リットルの尿をリサイクルできるトイレは90万ルピー、1,000リットルであれば150万ルピーとしている。
さらに現在、インドが輸入に頼っているカリウムの自給にも繋がるという副産物にも注目、「大規模に展開した場合、生成されるアンモニアとストルバイトの量は膨大になる」と付け加える。
本格的な商用の際には、授乳室や休憩室、カフェテリア、自動販売機、Wi-Fiを設けたオアシスの中心にすることで、トイレを収入源とすることで、「インドのトイレ事業に革命を起こす」ことが同社の目標である。
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なお、現状に何ら役立つ情報をご提供できていない「ASKSiddhi(アスクスィッディ)」なので、せめて「在ムンバイ日本国総領事館」より日々発信されている州内の状況や州政府による措置に関する最新情報を、今後はこちらにも転載させていただきたい。
=== 以下、同掲題メールの転載 ===
※5月11日付けのメール、件名「新型コロナウィルスに関する注意喚起(マハーラーシュトラ州におけるロックダウン及び活動制限、E-Pass取得)(2021年5月11日)」
●タクシーやハイヤー等公共交通機関を利用して空港に行く場合は、旅券、Eチケット等があれば、現下の状況(ロックダウン中)であっても、通行許可証等なく移動することが可能です。
●私用車を利用して、空港へ向かう場合には事前にマハーラーシュトラ州警察オンラインポータルもしくは、最寄りの警察署にてE-Pass取得をしていただき、検問等において提示出来るよう準備を願います。
1 当館にて現下の状況(ロックダウン中)の移動制限に関して管轄警察に確認したところ、タクシーやハイヤー等公共交通機関を利用して空港へ赴く場合には、理由が証明できる書類等(旅券、Eチケット、その他業務上必要な理由を疎明する書類や社員証など)があれば、通行許可証等は必要ないとのことです。他方で、私用車を利用して空港へ向かう場合には、警察が発行するE-passを申請していただき、予め車両情報等を登録する必要があるとのことです。
2 今後、ムンバイ空港から運航される全日空便で帰国を予定されている方で、私用車の利用を検討されている方は、警察が発行するE-passを事前に取得していただき、検問の際には提示できるよう準備願います。
取得の方法については、マハーラーシュトラ州警察オンラインポータル(https://covid19.mhpolice.in/registration)から申請、もしくは、最寄りの警察署に関係書類を提出して取得することが可能です。
【問い合わせ先】
在ムンバイ日本国総領事館・領事班
電話(91-22)2351-7101
メール ryoji@by.mofa.go.jp
=== 転載終わり ==
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Yoko Deshmukh
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インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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