インドの婚活、その前にある「交際」の空白

 

Posted on 01 Aug 2026 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

少し前まで、いわば様式化していた結婚の形が、いまはまったく変わっているんだね。



都会で働く若いインド人たちにとって、出会い、交際、結婚といったライフイベントを支えるサービスのニーズが、近年大きく変化しているという記事を、「The Hindu」に見つけた。

India perfected matrimony. Why hasn’t it figured out faith-based dating?

「タミル系バラモン*」などのカーストも、苗字がアイヤル(Iyer)なのかアイヤンガール(Iyengar)なのかも明記せず、ホロスコープにも言及せず、気付くべき人だけが気付くような手掛かりを残したい。

プロフィールには、チェンナイのマールガリ音楽*のライブで撮影した写真、フィルターコーヒーの入ったステンレス製タンブラーを手にした写真、そして「市内で最高のサンバルを食べられるのはマイラポールだ」との主張を載せる。

「できれば同じ属性の女性と出会ってほしい」と思っている両親の願いも、端から否定したくない。

たとえば、こうしたかゆいところに手の届くような、イマドキのインドの交際事情をそっとサポートするマッチングサービスが、インドでは立ち上がっている。

インドでは20年以上という長年にわたり、同じ属性の相手と結婚したいと願う人々を後押しするデジタル・エコシステムが、自然に育まれてきた。

インド最大級の見合いサイト「Matrimony.com」だけでも、宗教、カースト、言語集団、職業などに分かれた、コミュニティー別のサイトを325以上運営している。

しかし、その前段階である「デート」、いわゆる交際については、これまでほぼノータッチだった。

インド人が誰と結婚するかについて、宗教が今も驚くほど大きな影響力を及ぼしていることを考えると、これは不思議なことだ。

米国のピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)によると、ヒンドゥー教徒の99%、イスラーム教徒の98%、スィーク教徒の97%、キリスト教徒の95%が、同じ信仰を持つ相手と結婚している。

それだけに、宗教に基づくマッチングアプリが存在しないことは、いっそう興味深く感じられる。

インドには、宗教別の結婚相手紹介サイトが数多くある。

しかし、宗教を軸としたマッチングサービスとなると、驚くほど選択肢がなかった。

宗教を第一に掲げる世界的なマッチングアプリの中で、いち早くインドへ進出した「Muzz」は、ロンドンで誕生し、今年、インドでの事業を正式に拡大した。

同サービスは、「Tinder」と「Shaadi.com」の中間に位置する。

同社によると、世界190か国に1,700万人を超えるユーザーがおり、これまでに80万組を超える結婚を成立させてきたという。

ムンバイーに住む28歳の建築家の女性にとって、まさにその中間的な位置付けが魅力だった。

「Muzzなら、ようやく、いちいち説明する段階を省けると思えた。ここにいる全員が、ラマダーンのことや、私がお酒を飲まない理由をすでに理解しているなら、心置きなく自分の好きな本や映画について話せる」

急に相手の返信が途切れるゴースティング*や、話の弾まないやり取り、期待の食い違いといった現代のマッチングに付きものの問題は、宗教的価値観を共有していても消えることはない。

むしろ信仰が共通していることで、結婚、子ども、家族についての話だけが早々に進んでしまい、より根本的な問いには答えられないことさえある。

31歳のマンガロール出身のキリスト教徒の女性も、別の方向から同じ結論にたどり着いたと話す。

アルゴリズムが登場するはるか以前から、教会の年配者たちは、すでに若い者同士をマッチングする仕組みを完成させていた。

女性は今でも、ほかのキリスト教徒に自然と引かれることがある。

それは、信仰の異なる相手と交際したくないからではない。

ささいなことに聞こえるかもしれないが、同じ宗教を持つことで、身内にしか分からない冗談を理解しやすくなる場合があるからだ。

「クリスマスの習慣、家族内の冗談、食べ物、日曜日のミサ。そうしたことを、いちいち説明する必要がない」

こうした流れを受けてか、インド最大の上場結婚相手紹介プラットフォームである「Matrimony.com」さえも、2025年度第3四半期の決算で、新規プロフィール数が「目に見えて減少」し、有料会員が9.7%減少、結婚相手紹介事業の売上高が4.2%減少したと報告した。

最新の年次報告書によると、2024年にオンラインで出会ったカップルの30%がデジタル・プラットフォームを通じて知り合った一方で、結婚相手紹介サイトを通じて出会ったカップルは、わずか9%だった。

若いインド人は以前より長くマッチングアプリを利用し続け、結婚を遅らせ、信仰、アイデンティティー、共通の価値観を軸にしたニッチなプラットフォームへと引かれている。

「Matrimony.com」でも、働く専門職向けのマッチングアプリ「Luv.com」を立ち上げた。

若いインド人は、「Tinder」、「Bumble」、「Hinge」といった多様なアプリを使い続けながら、自らのアイデンティティーをそれとなく示している。

*タミル系バラモン: タミル語を母語とするヒンドゥー教のバラモン共同体。主にアイヤルとアイヤンガールに大別される。
*マールガリ音楽: タミル暦のマールガリ月に当たる12月中旬から1月中旬ごろ、チェンナイ各地で開催されるカルナータカ音楽やインド古典舞踊の公演シーズン。
*ゴースティング: 交際相手などからの電話やメッセージに応じなくなり、理由を説明せず、突然すべての連絡を絶つ行為。
 

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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