都市化で変わる、インド人の腸内細菌

 

Posted on 28 Jul 2026 21:00 in インド科学技術 by Yoko Deshmukh

おもしろい研究成果だな。



インドの生活習慣病に対する腸内細菌の役割について紹介する記事を、「The Hindu」に見つけた。

Gut-microbe study races to capture what urban diets erase in urbanising India

ヒトの腸内に存在する細菌が、都市化が進むインドにおける糖尿病、肥満、高血圧の増加理由の解明に役立つ可能性がある。

研究者らは3年間にわたる研究から、南アジア全域の腸内マイクロバイオームについて初のデータベースを作成し、その成果を査読付き学術誌「Gut Microbes」に発表した。

この研究では、インドとスリランカの10のコミュニティーから成人575人を対象にサンプルを採取し、遺伝子解析を通じて腸内細菌を調べた。

シカゴ大学(University of Chicago)のマーナサ・ラガヴァン(Maanasa Raghavan)氏と共同で研究を率いた、ラクナウのビルバル・サーニ古科学研究所(Birbal Sahni Institute of Palaeosciences)のニラジ・ラーイ(Niraj Rai)氏は、インドには珍しい「自然実験」の環境が存在すると説明する。

「同じ祖先を持ちながら、食を取り巻く環境が大きく異なる『農村対都市』の人口集団を、今なお見つけることができる国はインドだけです」と同氏は述べた。

国際糖尿病連合(International Diabetes Federation)の最新の推計によると、2024年時点でインドでは推定8,980万人の成人が糖尿病を抱えている。
これは中国に次いで世界で2番目に多く、世界の糖尿病患者のおよそ7人に1人に相当する。

同連合は、インドの糖尿病患者数が2050年までに約75%増加し、1億5,670万人に達すると予測している。
一方、現在でも推定43%の症例が診断されていない。
世界全体では、成人5億8,900万人が糖尿病を抱えていると推定されている。

インドで糖尿病が急増している大きな要因となってきたのが、急速な都市化と食生活の変化であり、今回の研究はまさに、この変化を腸内から読み取ろうとしたものだ。

研究者らは、遠隔地や森林で暮らすコミュニティー、あるいは初期農耕民的な生活を送る各コミュニティーと、その親族で、外食や加工食品を入手できる町や都市へ移住した人々を組み合わせて調査した。

両グループが共通の遺伝的祖先を持つことはゲノム解析によって確認されているため、ラーイ氏は、両者のマイクロバイオームの違いは遺伝子ではなく、環境に由来するはずだと主張する。

スリランカで最も古い狩猟採集民の入植者集団の一つであるヴェッダ(Vedda)*も研究対象に含まれた。
ヴェッダは遺伝的には南アジア系でありながら、現在も採集を中心とする生活様式を維持しており、ラーイ氏によれば、その腸内環境は「古代の腸内細菌の特徴」に近いという。

同じ遺伝的背景を持ちながら、環境によって腸内環境が変化することを最も明確に示す例が、Megamonas*という細菌だ。
研究では、農村部に暮らす親族と比べ、都市部に暮らす人々でMegamonasが一貫して多く存在することが確認された。

Megamonasは世界各地の研究で、肥満、高血圧、血糖値の上昇との関連が指摘されている。
今回の論文でも血糖値との有意な関連が報告されており、脂質吸収に関係する既知のメカニズムも存在する。

「食生活の変化によってMegamonasが増えていることを、私たちは今回初めて報告しています」とラーイ氏は述べた。

これとは反対の傾向を示すのがHoldemanellaだ。
Holdemanellaは食物繊維の摂取や耐糖能との関連があり、南アジアでは広く見られるものの、都市化に伴って失われているようだ。
ただし、ラーイ氏によるとケーララ州は例外で、都市へ移住した後も伝統的な食生活をおおむね維持しているコミュニティーではHoldemanellaが残っていた。

ラーイ氏は、都市化による変化を、肉を食べるかどうかではなく、食品の加工という観点から捉えている。

インド北東部では、農村部でも都市部でも肉を食べる。
都市部との違いは、ビスケットや清涼飲料水、ときどき食べるピザなどにあると同氏は説明する。

今回の研究結果は、インド亜大陸における乳製品をめぐる従来からの説明にも一石を投じている。

成人になっても牛乳を消化できるようにするラクターゼ持続性遺伝子は、一般に北西部からの人々の移動、さらには約4,000~5,000年前のアナトリアやステップ地域からの移住に由来するとされている。

しかしラーイ氏は、ラダック人(Ladakhis)、トダ(Toda)*、コタ(Kota)*、カドゥ・ゴッラ(Kadu Golla)*などの牧畜コミュニティーが、それよりはるか以前から牛乳を摂取していたと指摘する。
さらに、これらの人々の腸内には、乳糖を分解できる特徴を持つ細菌が存在しているという。

研究チームが1万件を超えるサンプルを調べたところ、ラクターゼ持続性の遺伝子型との相関はほとんど確認されなかったとラーイ氏は説明する。

これは、この遺伝子変異が牛乳を摂取するための必須条件ではなく、「追加的な恩恵」だった可能性を示しており、乳糖の分解を担う細菌が長い時間をかけてコミュニティーレベルで正の選択を受けてきた可能性があるという。

マイクロバイオーム研究が重要なのは、腸内細菌が遺伝子の発現の仕方を変化させる環境要因として働くためだとラーイ氏は説明する。
それは、喫煙によって遺伝的な発がんリスクが高まることにも例えられる。

人間は最大1キログラムもの腸内細菌を体内に持ち、その一部は両親から受け継がれる。
ラーイ氏は、腸内細菌を変化させることが、将来的には治療への一つの道になる可能性があるとみている。

このプロジェクトは現在、機能面を調べる次の段階へ進んでいる。
ラーイ氏の研究チームは、これらの細菌が作り出す分子を解析するメタボロミクスに着手し、特定の微生物と特定の疾患との関連を明らかにしようとしている。

ラーイ氏は、年末までにサンプル数が約1,000件に達すると見込んでいる。
これにはアンダマン・ニコバル諸島からのサンプルも含まれる予定で、研究チームはこの冬、外部との接触が限られているコミュニティーからサンプルを採取する承認を得ている。

*ヴェッダ(Vedda): スリランカの先住民集団。狩猟や採集を基盤とする伝統的な生活文化を持ち、スリランカで最も古くから暮らしてきた人々の一つとされる。
*Megamonas: ヒトの腸内に生息する細菌の属の一つ。今回の研究では、農村部より都市部の人々で多くみられ、血糖値の上昇や脂質代謝との関連が報告された。
*トダ(Toda): 南インド・タミル・ナードゥ州のニーラギリ丘陵を中心に暮らす先住民コミュニティー。伝統的に水牛の牧畜や乳製品と深く結び付いた生活文化を持つ。
*コタ(Kota): 南インド・タミル・ナードゥ州のニーラギリ丘陵を中心に暮らす先住民コミュニティー。農耕や牧畜、工芸などを伝統的な生業としてきた。
*カドゥ・ゴッラ(Kadu Golla): 南インド、主にカルナータカ州に暮らす牧畜コミュニティー。伝統的に家畜の飼育や乳製品と密接に関わる生活を営んできた。

ASKSiddhiは、Noteでも記事をアップしています。
今後メンバーシップを利用した企画なども考えていますので、
よろしければフォローしてみてください。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



Share it with


User Comments

Leave a Comment..

Name * Email Id * Comment *