インディラ・ガーンディー国際空港であわや
Posted on 21 Feb 2026 21:00 in トラベルASKSiddhi by Yoko Deshmukh
「ミルガヤー」は、ことしの「わたしのパワーワード」になりそうです。
羽田でスーツケースを2個預け、エア・インディアのデリー行きAI357便に搭乗した。
今回も、いつものように何事もなく到着するはずだった。
デリーのインディラ・ガーンディー国際空港では、国内線に乗り継ぐ場合も税関手続きのため、いったんスーツケースを受け取らなければならない。
到着後、荷物受取所のベルトコンベヤーの前に立つ。
1個目は、ちょうど到着と同時にタイミングよく回ってきた。
幸先は悪くない。
ところが、もう1個がなかなか出てこない。
ぐるぐると同じ顔ぶれのスーツケースが回り続け、やがて、ベルトはぴたりと止まった。
すべての荷物を下ろし終えた、という無言の合図である。
一瞬、血の気が引いた。
以前にも一度、羽田発ムンバイー行きのシンガポール航空でロストバゲージに遭遇したことがある。
そのときは後日、プネーの自宅までオートリクシャーが届けてくれた。
今となっては笑い話だが、当時は肝を冷やした。
しかし今回は事情が違う。
デリーで数泊する予定で、出てこなかったスーツケースには洗面道具、スキンケア用品、着替え一式が入っている。
いやまいったな。
ベルトのそばにいた職員に声をかける。
まず、「似たスーツケースがないか確認してほしい」と言われる。
取り違えは珍しくないらしい。
次に、チェックイン時の手荷物番号を提示する。
職員はハンドヘルド端末に入力し、すぐに結果を確認した。
「両方とも、確実に搭乗便に積まれていました」
では、なぜ出てこないのか。
「誰かが持ち去ったかもしれません」
その一言で、さらに青ざめた。
だが、その職員は終始落ち着いていた。
電話をかけ、無線で連絡を取り、荷物の行方を追ってくれる。
その姿を見ているうちに、不思議とこちらの不安もやわらいでいく。
途中、電話でシッダールタにも状況を説明してもらうなど、慌ただしい時間が流れる。
すると、その職員のもとに一本の連絡が入った。
「機内から1個、下ろしそびれていたスーツケースがある」
それが、まさにわたしのものだった。
ほどなくして、止まっていたベルトがビープ音を合図に再び動き出す。
ゴトゴトと音を立てながら、ぽつんと、ひとつだけ現れたピンクのスーツケース。
職員はそれを取り上げると、こちらに差し出しながら笑顔で言った。
「ミルガヤー(見つかった)」
その表情は、誇らしげなドヤ顔だった。
ありがとう。
空港という巨大な無機質の空間のなかで、最後に残ったのは、ひとりの職員の冷静さと責任感だった。
ロストバゲージ未遂――しかし、旅の記憶には確かに刻まれる、小さなドラマである。

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Yoko Deshmukh
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インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
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