「冬サリー」着こなしの検索で見つけたサリー名人による長文コラム

 

Posted on 22 Dec 2024 21:00 in ASKSiddhiサリー部 by Yoko Deshmukh

この方のサリーに対する考え方には共感するばかりです。あと、小柄な方らしいんだけど、背高コーデが抜群にうまいよね。



わたしなりの「サリーの旅」を始めた当初、よくインスタグラムで見かけて、そのゴージャスかつスマートな着こなしに惚れ惚れとしていたIsha Priya Singhさんが、すべての「サリー活ピープル」を励ますような、力強いブログ記事を2020年に発信されていたので、いまさらだが抄訳したい。

My Saree Yatra : A Journey of shedding prejudices

「インド(特に北インド)の少女たち」にとって、サリーは成人の証であり、すなわち初めて正式にサリーを着る機会は高校(12学年)の送別会というケースがほとんどだったし、現在もこれは変わっていないだろうと語るIshaさん。
その後は誰かの結婚式などでサリーを着る機会が何度かあるだけで、そうするうちサリーはとても特別なもので、特別な機会にしか着ないものだという意識が刷り込まれていくのだろう(筆者もそのひとりだ)。

実際Ishaさんも、サリーを日常的に着る女性は、教師、政治家、ソーシャルワーカー、またはラージワダ(大地主の家族)と結婚した人だけだと思っていた。
一方で、母親(と同世代のほとんどの女性)が毎日、寝るときさえサリーを着ているのを見て、自分のこうした考えが奇妙にも思えた。

経済自由化後のライフスタイルの変化により、都市部の中流階級は西洋化を近代化と同一視するようになり、近代化とはすなわち文化に根ざすことはできないとの固定観念が広がったのではないかとIshaさんは予想する。
そのため、文化的な衣服は、儀式や祭りなどの文化的な機会にのみ着用され、また文化的な衣服を毎日着ている人は、時代遅れか、保守的な環境で暮らしているかのどちらかとみなされるようになった。

23歳でIshaさんは初めての仕事に就き、1年が経ったころ、いわゆる「西洋の」フォーマルウェアなどの「きちんとした格好」をすることを求められる社内公式イベントが発表された。
Ishaさんは、(身長や体型などのコンプレックスから)スカートやパンツスーツを着ることにためらいがあり、それではサリーをフォーマルウェアとして着てみようと思い立った。
その時に初めて購入した手織りのサリーは、オリッサ州ヌアパトナ(Nuapatna)のマーセライズ加工コットンのイカットサリーだった。

その試みは思いのほかうまくいき、いわゆる西洋のフォーマルウェアよりも自信を持ってサリーを着ることができたことから、稀ではあったがそうした機会には必ずサリーを着ることに決めた。
ただ、サリー姿は(今でも)老けて見えると一般に考えられており、これをワードローブに入れることに当時まだためらいがあった。
今では、こうした考えも根拠のない年齢差別的な誤解だったと分かり、またたとえ「年相応に見える」ことがあったとしても、それは罪ではないという考えに至っている。

26歳で結婚後はドバイに移住したため、もう1つの根拠のない考え、つまり外国では自分のルーツを示す文化的な衣類を着てはいけない、または着るべきではないという「残念な自意識」により、サリーの着用をあきらめた期間があった。



意外だったのは、上の4パターンは
写真ではかっこよく見えるが、
着心地はいまいちだったという点だ。
デニムシャツを合わせる時は、
サリーの重量感を強調しない
ライトな素材の方がおすすめ。


こうした紆余曲折を経て、Ishaさんにとって本当のサリーの旅は、スローファッションに目を向け始めた30歳ごろから始まった。
当時ムンバイーに住んでいたIshaさんは、自らの信条を貫く上での衣類としてのサリーにとても惹かれていた。
一方、「40歳になったらサリーだけを着よう」と論理的な根拠もなく自分に言い聞かせ続けていた。

そんなある日、そうしたメンタルバリアを打ち破ろうと、オンラインで手織りのサリーを数枚購入、オフィスに着流して行くようになった。
最初の数回は、同僚らに好奇の目で見られたり、「何かお祝いごとでもあるの」などのありがちな質問をされたりしたが、気に留めないよう努めると同時に、賛美してくれる同僚に背中を押される形で、Instagramなどのソーシャルメディアで日々のサリー着こなしを記録し始めた。
それでも当初は、サリーを着る機会は月に2、3回程度だった。

1年後の2017年5月、Ishaさんは1週間連続してサリーを着て、その写真をInstagramに投稿するという試みをした。
この「勝手にサリーウィーク」は、は、クラフト活動家であるライラ・ティアブジ(Laila Tyabji)氏と、同氏がソーシャルメディアで毎月シェアしているサリーのコラージュにインスピレーションを受けたもので、偶然にも当時の繊維省大臣だったスミリティ・イラーニー(Smriti Irani)氏がハッシュタグ #cottoniscool を立ち上げた時期と重なった。

Ishaさんはすぐに自分の投稿にもこのハッシュタグを付けて発信したところ、大臣からリポストしてもらうことができ、これによりフォロワー数が急増、多くのブランドとのコラボレーションが始まった。
当然サリーを着る機会も増え、さまざまなスタイルを自分なりに考案するようになった。
そうした試行錯誤の中、写真では見栄えがよく、Instagramでも高く評価されるものの、着用感は必ずしも快適でない例も多々あることを学んでいく。
ただし、いずれの試みも唯一、サリーが持つ無限の可能性を示すという点では大成功した。
サリーは必ずしもブラウスやペチコートと合わせる必要はなく、必ずしも「フォール(ドレープを美しく下垂させるため重りとして裾に縫い付ける布)」を必要とせず、決まった方法で巻く必要もない。
サリーは誰でも、ほとんどすべての活動や機会に身につけられることに気づいた。
必要なのは、自分らしいサリーのスタイルを見つけることだけだ。



上の例は成功例の一部としている。
ロングシャツ、ペプラムシャツ、トップス、クルタはいずれもサリーとよく合う。



上の写真は、北インドの冬に試したサリーのスタイリングで、
綿やシルクのサリーにプルオーバーのセーター、
ジャケット、ケープを合わせると、
冬でも暖かく快適に過ごせた。


2年間にわたり定期的にサリーを着ているうちに、サリーは着るのに10分から15分しかかからず、きちんとドレープすれば一日中ずれないことにも気付いた。
サリーのパッルー部分、つまり巻き終わりのルーズな端は、顔や頭を覆うフードになったり、寒い時は首巻きにしたりなど、さまざまな用途に使用できるアクセサリーとして活躍する。
縫い目のない長い布に過ぎないサリーが扱いにくいと考えるのは神話であり、好きなように着ることができる自由な衣類である。

そう確信したIshaさんは、2019年にドバイに戻ってからは、サリーを着続けることにためらわなくなった。
一方で、頭の中にいくつかの疑問が浮かんでくることは否定できない。
現代の大都市における文化とは何を意味するのか。
グローバリゼーションの代償として文化的アイデンティティの完全な喪失を受け入れざるを得ないのか。
文化に根ざした衣服を着ることは、小売業で栄え、世界最大のファッションブランドが集まり世界最大のショッピングモールが林立する都市と調和していけるのか。
何世紀もの歴史を持つ織物は、世界一の高層ビルや、縦横無尽に交差する広い道路網を走り抜ける派手な車を背景に、調和して見えるだろうか。

こうした質問に正しい答えはなく、それぞれが自分に合った答えを見つけなければならないと話す。
Ishaさんにとって、衣服は自身のアイデンティティであり、華やかな世界的トレンドの名の下に、自らの文化の豊かな質感を失いたくないという思いがある。
あふれるブランドの海の中で、「インド」というブランドを身につけたい。
もっともサリーは時代を超越した流動的な衣服であり、時代を超えて生きてきた。
変化するライフスタイルや都市の景観に適応する。
いわゆる近代都市にも完璧にフィットする。
そしてあらゆる意味で、流動性は未来である。
社会が進歩するにつれ、より多くの障壁が打ち破られ、境界線が曖昧になることが望まれる中、サリーはひっそりとそれを実現している。
そうIshaさんは確信している。



上の8枚の写真は、
Ishaさんが海外も含む旅先で
快適に感じたサリースタイルを示す。
いずれも軽く持ち運びやすいサリーで、
ショルダーバッグ、スニーカー、ウエストベルト、
サングラスなどのアイテムを合わせて
スタイリングしている。
 

Ishaさんは、自身のサリーの旅から得られた最大の成果は、サリーに対する抵抗だけでなく、サリーに対して持っていた精神的な障壁や偏見もすべてなくなったことだとしている。
サリーは、年齢、体型、性別、人種、宗教、国籍などに関係なく、誰もが着られる万能な衣服である。
ドレープ性のある布地なら何でも、6ヤード以上あればサリーにできる。
この柔軟性こそ、サリーが時代を超越し、持続可能なものとなる決め手である。

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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