投資するなら今!?可能性は未知数な日本式弁当店で、とんかつ弁当を注文

 

Posted on 05 Sep 2018 21:00 in ASKSiddhi独断うまい店 by Yoko Deshmukh

弁当もうまかったですけど、ロンドン・マフィンの焼き立てパウンドケーキも悶絶級の絶品でした。



通っているプネーの大学を通じて参加した、広島大学の招聘による2週間の語学学習・文化体験サマースクールから、2日前に元気に帰ってきた義理の姪Rちゃんは、話したいことがとにかくたくさんある様子で、生き生きと体験談を聞かせてくれている。

実に屈託のない表情のRちゃんだが、本当は一番日本での話を聞いて欲しかったのは、今年3月に急逝した父親のRさんだったんじゃないのかなと考えたら、不意に悲しくなってしまう。
なぜなら前回日本から一緒に帰ってきた2年前には、Rさんがプネーのわが家で彼女の帰りを待っていて、Rちゃんはダディを見るなりうれしそうに、一部始終を機関銃のように話していたことを思い出してしまうからだ。

あの優しかったダディは、もうこの世にいない。
しかしRちゃん自身は、そうしたことを微塵もうかがわせることなく、天真爛漫なひとりの若い女性そのものとして振舞うので、反対にこちらが慰められ、励まされている。
無事に帰って来て、本当によかった。

なお、兼ねてからこの世で一番ウマいグルメとみなしてきた本場広島のあの料理の名称に繰り返し言及し、熱く語るRちゃんに耳を傾けつつ、わたしはそっと脳内の辞書にあった「広島風お好み焼き」の用語を「広島焼き」にアップデートしたのである。
これからは、日本が大好きなRちゃんの目を通じて見えてくる、色鮮やかな「見知らぬ国ニッポン」を堪能させてもらおうと思う。

そんな折、兼ねてから気になっていた日本式弁当店「Your Bento」のメニューを、店主アクシャイ・ガンガーワネ(Akshay Gangawane)さんからの「食べてみて意見が欲しい」との呼びかけにより、特別に半額で試食させてもらえる機会があったので、プネーに住む日本人の友人たち6名と、Aさん宅に集合したのである。

Your Bento

道中で、弁当会のみなさんと食べようと、カルヤーニー・ナガル(Kalyani Nagar)にあるプネー随一のパン店、「ロンドン・マフィン(London Muffin)」に立ち寄り、クルミ入りパウンドケーキを調達しようとしたら、たまたま品切れだった。
仕方なく別の商品を買おうとしていたら、店内にいらっしゃったオーナー兼職人の韓国人女性たちが、「たった今、焼けたばかりの熱々でよかったら」との願ってもないお申し出をくださり、甘いバターの香りが立ち昇る焼きたてを自宅用と合わせて2本、購入させていただいた。
さらに「新作だからぜひ食べてみて」と、チーズとコーン入りの、ほっぺが落ちそうなほど美味なスイートバン(メロンパンのような皮)までいただき、弁当会にはすっかり遅刻してしまったが、ホクホクのウキウキで足早に会場のAさん宅に向かった。

半額での試食とは言え、参加者それぞれに自分の食べたい弁当を選ばせてもらっていたので、着席するとアクシャイさんのプレゼンテーションを聞きながら、さっそく味わった。
アクシャイさんによれば、「Your Bento」は4年ほど前に創業、当初3年はかなり苦戦していたが、この1年ほどは徐々に日系企業や日本人駐在員、和食好きのインド人を中心に注文が入り始めているのだという。
なるほど、ホームページを見ると、メニューがやたら充実している。
使う食材やメニュー、調理法はすべて、アクシャイさんが選び、決定しているようだ。

わたしはこの日、とんかつ弁当を注文した。
ほかの人たちは、エビフライ弁当、豚丼、鶏つくね弁当、ワサビ鶏弁当、焼きエビ弁当を食べていた。
わたしを含めた3名を除き、みなさんは過去に何度か「Your Bento」を利用されたことのある常連さんだった。



味はよいが薄さとパサつきが否めないとんかつ。
 

一言で表すとすると、この弁当店はまさに発展途上にある。

この日集まった面々は、日本人駐在員に帯同して滞在し、一家の台所を任されている方、巻き寿司店を経営している方、プネーやムンバイー、そして近隣諸国の高級日本料理店に造詣の深い方など、わたし以外はほぼ全員が普段から、プネーで入手できる食材を創意工夫して、日本の味を再現しようと切磋琢磨している、舌の肥えた強者ばかり。
アクシャイさんはこうした方々から次々と繰り出される、非常にストレートで厳しい意見を正面からキャッチし、かなり真剣に耳を傾けている様子だった。

わたしもご本人に率直なフィードバックをお伝えして、だし巻き玉子など普通においしいおかずもあるので、メニューを絞ってでも満足感と弁当として調和のとれた味付けを追求していくといいのではないかと提案した。
そのためにも、この日集結した百戦錬磨の勇者たちに、これからも積極的にアドバイスを求めて欲しい。
アクシャイさんは努力を惜しまない方であろうことが見受けられるので、今後がとても楽しみだ。



玉子焼きはちょうどよい塩加減でウマかった。
 

なお、この弁当店に関して明言できる、意外かもしれない最大のアドバンテージは、シェフ兼創業者がアクシャイさん自身、すなわちインド人であるということだ。

日本人が手掛ける和食店の方が有利と感じられるかもしれないが、少なくともこれまでプネーに進出した日本人の中で長く滞在した人は皆無だった。
プネーで日本人が和食店を含めた飲食店を継続することには、思いのほか大きな障害があって難しいのかもしれない。
そして誠に残念ながら、鳴り物入りでオープンした店や事業も、日本人がいなくなった途端に料理の質が落ち、人知れず消えていくことになる。

アクシャイさんは逃げも隠れもできない地元の人なので、この日本式弁当店に彼の人生すべてをかけているとしても過言ではないだろう。
つまり、誰もがおいしいと喜ぶ和食弁当を、安定して提供できるスキルを、絶え間ない訓練と試行錯誤により習得しさえすれば、末永く事業を継続していける。
そして真の意味で日本人駐在員御用達の店、ひいてはプネーを代表する、すばらしい成功事業となる可能性は十分にある。

もしかしたら我々は、ものすごいブレイクスルーを目撃することになるのかもしれない。
 





        



About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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