ラスボスとの雑談

 

Posted on 08 May 2026 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh

こんな贅沢な時間の使い方ができる境遇でいられるのも、心底ありがたいことだな。



わたしがひそかに「プネーのラスボス」とお呼びしている人物がいる。
世界中と取引をする医療テック系企業の経営者である。
わたしにとっては、かつての上司であり、今では友人でもあり、ある意味では精神的な師匠のような存在でもある。

今回、その方にひさしぶりに会いに行った。

とはいえ、特別な目的があったわけではない。
平日の業務時間中にもかかわらずお邪魔し、ただ雑談をしに行っただけである。

幸いなことに、先方は翌日から夏休みを控えており、すでに半分ほどバケーションモードに入っていた。
その空気感もあってか、会話は最初からどこか力が抜けていた。

彼はジャイナ教徒※である。
しかし、話していて感じるのは、特定の宗教への執着というよりも、もっと根源的な精神性への関心である。

「宗教はすべて、本質的には同じなんだよ」
そう静かに語った。

さらに、
「スピリチュアルな考え方のベースがあると、精神面が安定するのは本当だよ」
とも言っていた。

インドでは、こうした話題が日常会話の中に自然に入り込んでくる。
しかもそれが、単なる宗教談義ではなく、生き方や精神状態の話として共有されることが多い。

同氏は最近、毎日聴いているというポッドキャストをすすめてくださった。
米国の瞑想指導者、Joseph Goldstein の音声である。

Joseph Goldstein Podcast Playlist (Spotify)

話題は、そのままヴィパッサナー瞑想※へ移っていった。

「不安とか、怒りとか、失望とか。そういう負の感情が出てきたら、いったん “その感情が出てきたこと自体” を観察するんだよ」

感情に飲み込まれるのではなく、感情が生まれている現象そのものを俯瞰する。
それによって、人は自我から少し距離を取ることができるのだという。

さらに彼は、人類文明そのものについても独特の視点を語った。
「人類が文明を築いてからの3000年は、結局、比較と所有の歴史なんだよ」

貧富の差。
他者との比較。
優越と劣等。
国家、宗教、民族、階級――。

そうした「自分」と「他者」を分ける意識が、争いを生み続けてきたのだという。

しかしその一方で、「人間の身体を含め、物質的なものは全部 “仮の姿” なんだよね」とも語った。

自分が見ているもの。
聞いていること。
触れているもの。
五感によって認識している世界そのものが、ある意味では幻想である――。

これは仏教思想にも通じる感覚である。

興味深かったのは、彼自身は生まれながらのジャイナ教徒でありながら、現在はむしろ仏教的な考え方に強く共鳴しているという点であった。

「キーワードは “Compassion” なんだよ」
彼はそう言った。

Compassion――慈悲、共感、他者への深い理解。

そして話は、さらに現代世界へと広がっていった。

「今、世界中の人たちの意識や無意識が、一つに集約し始めている気がするんだよね」

その結果として、大きな摩擦が起きているのではないか。
彼は、現在の世界的な右傾化や分断の流れを、その象徴のひとつとして捉えていた。

「我々が目にしているのは、人間のエゴの断末魔なのかもしれない」という表現も印象的だった。

もちろん、それが本当に正しいのかはわからない。
ただ、少なくとも彼は、現代社会を単なる政治や経済の問題としてではなく、人類全体の意識変化として見ているようだった。

その先に、どのような世界が待っているのか。
それは誰にもわからない。

ただ、酷暑のプネーの午後、翌日から休暇に入る一人のジャイナ教徒と交わした雑談は、気づけば文明論や精神世界にまで広がっていた。

そして結局、最後に残った言葉は、とても単純なものであった。
「Compassion がないと、人間は遅かれ早かれ、壊れていくんだよ」

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※ジャイナ教: 古代インドに起源を持つ宗教。徹底した非暴力(アヒンサー)を重視し、殺生を避ける思想で知られる。
※ヴィパッサナー瞑想: 仏教由来の瞑想法。「物事をありのまま観察する」ことを重視し、自分の感情や身体感覚を客観視する実践として知られる。
 

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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