出会いはAIに委ねられるのか: インドのケース

 

Posted on 06 Feb 2026 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh

日本でポピュラーな「ペアーズ」を含めて、いまや国境を軽々と越えられるのは恋愛市場ぐらいなのかもね。



ニューヨーク市長のゾーラン・マムダニ(Zohran Mamdani)氏が妻のラマ・ドゥワジ(Rama Duwaji)氏と、マッチングアプリの「Hinge」を通じて出会ったことが話題になったが、同アプリをはじめ多数の類似するサービスを擁する「Match Group」では、ユーザーが「理想のパートナー」を探すためにAIを製品の中核に据えつつあるという記事を、「The Hindu」が伝えていた。

How are dating apps turning on AI for their users?

特にコロナ禍以降、こうしたサービスの利用者が訴えてきた「スワイプ疲れ」を軽減すべく、マッチングアプリ各社はAIを導入し、ユーザー体験の向上とともに、会話を始めるきっかけ作りを支援してきた。
生成AIを活用することで、パートナー探しをする人々を、より快適で自分に合った形で手伝い、ユーザー数の獲得を図ろうとしている。

とりわけインドは、マッチングアプリ市場としても急速に存在感を高めている。
若年人口の多さ、都市部でのスマートフォン普及、英語と地域言語を併用するデジタル文化を背景に、インドは世界でも有数の成長市場と位置づけられている。

一方で、インドでは恋愛や結婚が、依然として家族や社会的背景と強く結びついている。
そのため、趣味嗜好だけでなく、学歴、宗教、言語、地域、家族観といった要素がマッチングに影響を与える場合も多い。
こうした複雑な条件を整理し、効率的に提示できる存在として、AIへの期待が高まっている側面もあるのかもしれない。

たとえばMatch Groupは、2025年9月30日を期末とする第3四半期報告書の中で、ユーザーのデバイス内に保存された写真から、嗜好や傾向をより深く理解できるAI搭載機能「Chemistry」について概説した。

AIを活用したこのインタラクティブなマッチング機能は、「Tinder」の2026年の製品体験における大きな柱となる。
現在はニュージーランドとオーストラリアで利用可能となっているが、今後数か月以内に、インドを含む多くの国に展開する予定だとしている。

一方で、こうしたプラットフォームに、これまで以上に多くの個人情報を提供しなければならなくなる点は、ユーザーの懸念と切り離せない。
サイバーセキュリティ企業「Tenable」のシニアスタッフリサーチエンジニアであるSatnam Narang氏は、この点について警鐘を鳴らす。

ウィーンに拠点を置く非営利団体「noyb(欧州デジタル権利センター)」のデータ保護担当弁護士、Lisa Steinfeld氏は、AIシステムはユーザーにとって「ブラックボックス」のように見え、自身のデータがどのように処理されているのか、またそれが既存の法律に準拠しているかどうかを容易に理解できないと指摘した。
「特に個人のカメラロールには、性生活、性的指向、政治的または哲学的信条などを明らかにする可能性のある、極めてセンシティブな写真が含まれている可能性がある。それにより、AIによる幻覚、不正確さ、法的根拠の欠如、不公平、そして権利行使の妨害といったリスクが喚起される」

こうした懸念は、欧州に限られたものではない。
インドでは2023年に「デジタル個人情報保護法(Digital Personal Data Protection Act)」が成立したが、生成AIによる画像解析やプロファイリングが、どこまで想定されているのかについては、なお議論の途上にある。

昨年、noybはマッチングアプリの「Bumble」に対し、ChatGPTを搭載した「AI Icebreakers」機能がEU法に違反しているとして、苦情を申し立てた。

もちろん、生成AIの実験を行っているのは、マッチングアプリの運営側だけではない。
画像生成AIを使って偽のプロフィールを作成し、サイトと他のユーザーの双方をだます利用者も、少なからず存在している。

インドでも、マッチングアプリやSNSを起点とした恋愛詐欺の被害報告は増加傾向にある。
警察当局は、海外拠点を装った詐欺グループによる被害について、注意喚起を繰り返している。

また、アプリ利用者の中には、ChatGPTなどのAIチャットボットを密かに使い、マッチ相手とのやり取りを行ったり、母国語以外の言語で流暢に会話したりする者もおり、これは「チャットフィッシング(Chatfishing)」と呼ばれる傾向につながっている。
マッチングアプリで、明らかにAIが生成したと分かるメッセージを受け取った人は、侮辱されたと感じ、尊厳を傷つけられたと受け止めてしまう。

多言語社会であるインドでは、AIによる翻訳や文章生成が言語の壁を越える手段として歓迎される一方で、「その言葉が本人のものなのか、AIによるものなのか」を見分けることが難しくなるという新たな課題も浮かび上がっている。

「Google Play」ストアには、デート相手を探している人向けに、AIによる支援を提供するサードパーティ製アプリも掲載されている。
「WingAI: Your AI Wingman」と呼ばれるアプリは、「すぐに相手をゲットする秘密兵器」を謳っている。
このアプリは、マッチングアプリのプロフィールやチャット内容をアップロードすると、AIが返信文を生成する仕組みを取り入れている。

先述のNarang氏は、恋愛感情を悪用する詐欺、いわゆる「pig butchering scams」の危険性を強調する。

同氏は次のように警鐘を鳴らす。
「2024年初頭には、AI生成画像を使った偽プロフィールがマッチングアプリ上に出現した。AI生成モデルは飛躍的に進化しているため、こうした偽プロフィールを見抜くことは年々困難になっている。マッチングアプリのユーザーにとって注意すべき危険信号は、使用中のプラットフォームを離れた場所(SMS、WhatsApp、その他のメッセージングアプリ)へ会話を誘導しようとする出会いだ。」

世界最大級の若年人口を抱えるインドにおいて、マッチングアプリと生成AIの関係は、利便性、プライバシー、そして信頼という三つの軸のバランスを、これまで以上に鋭く問いかけている。
 

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

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