インドは半導体産業の担い手となれるのか
Posted on 05 Feb 2026 21:00 in インドビジネス by Yoko Deshmukh
「長く忍耐のいる取り組み」に、インドは着手し始めているんだな。
インドで半導体(コンピューターチップ)産業をめぐる動きが注目されているとする、BBCの記事を抄訳したい。
Can India be a player in the computer chip industry?
「Tejas Networks」は、バンガロールを拠点に、セルラーネットワークやブロードバンド接続に対応する機器を製造するメーカーである。
共同創業者のアーノブ・ローイ(Arnob Roy)氏にとって、コンピューターチップの安定した供給は不可欠だ。
同社は「通信ネットワーク上でトラフィックを伝送する電子機器を製造している」。
そのためには、消費者向けやスマートフォン向けのチップとは根本的に異なる、数十万人のユーザーから同時に送られてくる膨大な量のデータを処理する、通信用途向けに設計された特別なチップが必要となる。
「そうしたネットワークはダウンが許されない。信頼性、冗長性、そしてフェイルセーフ動作が不可欠であり、チップのアーキテクチャはそれに対応できなければならない」
コンピューターチップの設計大国であるインドでは、こうしたチップの大部分が国内で設計されている。
世界の半導体エンジニアの約20%がインドにいると推定されている。
「世界の主要半導体企業のほぼすべてが、インドに最大、あるいは2番目に大きな設計センターを持ち、最先端製品の開発に取り組んでいる」と、インド電子情報技術省(Ministry of Electronics and Information Technology)のアミテシュ・クマール・スィンハ(Amitesh Kumar Sinha)共同次官(Joint Secretary)は述べている。
一方で、インドに不足しているのは、半導体を製造する企業だ。
そのため、「Tejas Networks」のような企業は、必要なチップをインドで設計し、それを海外で製造している。
この仕組みの脆弱性は、チップの供給が枯渇し、あらゆる業界の企業が生産縮小を余儀なくされたコロナ禍で露呈した。
「パンデミックによって、半導体製造が世界的に過度に集中していること、そしてその集中が深刻なリスクを伴うことが明らかになった」とローイ氏は語る。
これが、インド独自の半導体産業の発展を促す契機となった。
「コロナ禍は、グローバルサプライチェーンがいかに脆弱であるかを私たちに示した(中略)。だからこそインドは、リスクを軽減し、回復力を高めるために、独自の半導体エコシステムを開発しているのだ」とスィンハ氏は言う。
スィンハ氏は、半導体産業の発展に向けた政府の取り組みを主導している。その一環として、インドが競争力を発揮できる製造工程の特定にも取り組んでいる。
コンピューターチップの製造には、いくつかの段階がある。
まず設計段階があり、これはインドがすでに強みを持っている分野である。
次の段階はウエハ製造だ。
ここでは、半導体「ファブ」と呼ばれる巨大な工場で、非常に高価な機械を用いて、薄いシリコンシートに回路を刻み込む。
この工程、特に最先端のチップに関しては台湾企業が独占しており、中国が追い上げている。
第3段階では、大型シリコンウエハーが個々のチップに切り分けられ、保護ケースに収められ、接点に接続されてテストされる。
この工程は、アウトソーシングによる半導体組立・テスト(Outsourced Semiconductor Assembly and Test、OSAT)と呼ばれ、インドがターゲットとしている製造段階でもある。
「組立、テスト、パッケージングはファブよりも開始が容易であり、インドはまずそこへ移行している」と、インド電子半導体協会(India Electronics and Semiconductor Association、IESA)のアショーク・チャンダック(Ashok Chandak)会長は述べている。
同氏によると、こうした工場のいくつかは、今年中に「量産に入る」予定だという。
2023年に設立された「Kaynes Semicon」は、インド政府の支援を受けて半導体工場を稼働させた最初の企業である。
同社はグジャーラート州に、コンピューターチップの組み立てとテストを行う工場を2億6,000万ドルを投じて設立し、昨年11月に生産を開始した。
同社CEOのラグー・パニッカー(Raghu Panicker)氏は次のように説明する。
「パッケージングとは、単にチップを箱に入れることではない。10~12段階からなる製造プロセスだ。つまり、パッケージングとテストはチップ自体の製造と同じくらい重要で、この段階を経なければ、ウエハーは産業界にとって役に立たない」
同氏の工場では、最新のスマートフォンに搭載されたり、AIのトレーニングに使われたりするような、最先端のコンピューターチップは製造されない見込みだ。
むしろ、自動車、通信、防衛産業で使用されるチップの需要が高まるとみられている。
「インドにとって、経済的にも戦略的にもはるかに重要だ。産業を築くには、まず自国の市場に貢献する必要がある。精密さよりも、まず規模を優先しなければならない」とパニッカー氏は付け加える。
同社にとって、これは厳しい学習曲線だった。
パニッカー氏は語る。
「インドでは、半導体クリーンルームを建設した例も、この装置を設置した例もなく、人材育成の前例もなかった。
半導体製造には、従来の製造業とはまったく異なるレベルの規律、文書化、そしてプロセス管理が求められる。こうした文化的な変化は、技術的な変化と同じくらい重要だ。特にスタッフの育成には時間がかかる。5年間の経験を6か月で身に着けることなどできない。それが最大のボトルネックだ」
「Tejas Networks」のローイ氏は、現地調達の技術は今後さらに導入されていくだろうとみている。
「今後10年間で、インドに大規模な半導体製造拠点が出現し、それが当社のような企業に直接的な利益をもたらすと期待している。一方で、これは長い道のりの始まりでもある。インド企業が最終的には完全な通信チップセットを設計・製造するようになるとは思うが、そのためには忍耐強い資本と時間が必要だ。ディープテック製品の成熟には長い時間がかかり、インドはようやくそのような投資を後押しし始めたところだ」
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Yoko Deshmukh
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インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。
ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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