レストランは増えても人が足りない: インド飲食業界が直面する離職率の壁

 

Posted on 29 Oct 2025 21:00 in インドビジネス by Yoko Deshmukh

写真は例外的に、30年以上もここで働くネパール人マネージャーのいる、プネーの「Prem's」です。



近年のインドは、ほとんどの飲食店をフードデリバリーで利用できるようになっているため、レストランに出向いて食事を取るという時、それは外出先の必要性に迫られての状況以外は、何かしらの体験を期待しているものである。
その一方、レストランで働くスタッフの多くが十分な教育を受けていないことを痛感する瞬間も多くあり、それはつまり、十分な賃金を得られていないのではないかということに思いを致す。

そうしたことを考えていた時、インドの飲食業界における離職率の高さを挙げる、次の記事が目に留まったので抄訳したい。

Why restaurants in India are finding it difficult to retain staff

インド全国レストラン協会(National Restaurant Association of India、NRAI)によると、国内の外食市場はGDP成長率を上回る8.1%の成長率で、今年末までに5兆6,948.7億ルピーに達すると予測されている。
一方、慢性的な人材不足がその成長に影を落としている。

NRAI創設者であり、ハイダラーバード支部の諮問委員会メンバーでもあるシャーズ・メームード(Shaaz Mehmood)氏はこう指摘する。
「ハイダラーバードだけでも7万4,807軒のレストランがあり、食品サービス市場は1,016.1億ルピー規模で、インドで6番目に大きな市場だ。なお、ムンバイーが5,518.1億ルピーでトップとなっている。事業拡大という時、誰もがより広いスペース、手の込んだメニュー、より良いインフラについて語るが、実際に現場で事業を運営する人々――つまりサービススタッフやキッチンスタッフ――のことについてはほとんど触れない。実態は、採用は簡単かもしれないが、スタッフを維持するのは容易ではないにもかかわらずである。」

デリーのレストラン「Masala Synergy」の共同創業者シュレヤ・カプール(Shreya Kapoor)氏は、離職率が依然として根深い課題である理由を次のように説明する。
「ホスピタリティ業界、特にレストランは常にプレッシャーの大きい環境だ。長時間労働、ワークライフバランスの限界、そして絶え間ない肉体的・精神的な負担が、しばしば燃え尽き症候群を招く。新しいレストランやホテルが絶えず誕生しているため競争は激しく、従業員はわずかな賃金や福利厚生を求めて頻繁に転職する傾向がある。体系的な研修や明確なキャリアアップの道筋が欠如していれば、問題はさらに悪化するだけだ。」

インド・ブランド・エクイティ財団(Indian Brand Equity Foundation、商工省商業局〔Ministry of Commerce and Industry〕が設立した信託基金)によると、レストラン業界の直接雇用者数は2024年の850万人から2028年までに1,030万人に増加すると予測されている。
これは、レストラン業界がインドで最大規模の雇用主であり、国内全体では第3位の産業であることを意味する。

しかし、規模が負担を帳消しにするわけではない。
前述のシャーズ氏は語る。
「大まかに説明すると、ウェイターの給与は固定給で、その約80%が家族の扶養に用いられる。ほとんどの雇用主が食事と宿泊費を提供しているが、ウェイターが手元に残せる金額はほとんどない。また、若い世代はそれだけでは満足できない。2,000ルピーの昇給を提示されただけでも転職していくのはそのためだ。チップ(心づけ)文化を復活させるべきという声もある。なぜならチップは従業員にとって最も魅力的なインセンティブであり、サービス税ではそれが満たされないからだ。」

同氏はまた、従業員教育を通じてスタッフの成長を後押しすることも検討すべきだと指摘する。
インドは2028年までに日本を追い抜き、世界第3位の食品サービス市場を抱えることになる見込みであり、NRAIもこの潜在能力を活かすための支援政策と体系的なトレーニングの必要性を強調している。

「BORN(Beyond Ordinary Restaurants)」などを展開し、NRAIの運営委員でもあるジャプテージ・アフルワリア(Japtej Ahluwalia)氏は、離職率を高める要因として次を挙げている。
「給与の期日遅れが最も多く、次いで長時間労働である。レストランは非組織化セクターで主に成り立っており、参入障壁がない。500万ルピー程度の資金があれば、業界の仕組みを知らなくても誰でもレストランを始めることができる。一見華やかに見えるが、500ルピーや1,000ルピーといった低い昇給で人材の引き抜きが起こる。ささいな不利益があれば、スタッフはすぐに辞めてしまう。」

現在、非組織化セクターが組織化セクターを上回っている状況は、2028年までに逆転すると予想されている。
「だからこそスキルセンターが、食品サービス業界において画一的なアプローチから脱却するために不可欠だ」とシャーズ氏。
ハイダラーバードを拠点とするホスピタリティコンサルタント、ハニー・グハ(Honey Guha)氏にとって、研修はスキルだけでなく士気向上にもつながる。
「客から感謝されていると感じたり、社員旅行に参加したり、グループディスカッションで自分の意見が聞き入れられたりすることで、スタッフは会社の一員であることを意識できる。研修を通して、この変化の激しい業界で自分自身だけでなく家族も共に成長していく姿を実感できるのです。」

ハイダラーバードでバーテンダーとして働く男性は、プロフェッショナルな身だしなみに憧れて就職した店で、客とのコミュニケーション、常連客の注文の記憶、そしてプロレベルでの信頼関係構築について研修を受け、業務スキルが向上したと話す。
同時に、経営陣が敬意と愛情を持ってスタッフに接する姿を見て、同じ店で長く働く道を選んだ。

「Masala Synergy」チェーンの共同経営者シュレヤ・カプール氏は語る。
「尊重、インクルーシブ、そして認められる環境を育むことが成功のカギだ。そのため、スキル開発プログラム、明確なキャリアパス、体系的なシフト、そして公正なスケジュールを提供し、従業員が仕事面でも個人面でも自分たちが大切にされていると感じられるようにすることだ。」

「Café Delhi Heights」の共同創業者ヴィクラント・バトラ(Vikrant Batra)氏は、レストランで働くことを「その場しのぎ」と捉えるのではなく、「生涯のキャリア」としてもらえるよう、適切な育成が肝心だと説く。
「雇用主として、ワークライフバランスの感覚を醸成することはもはや義務である。この概念は業界では不可欠なのに過小評価されてきた。また、公正な賃金にも重点を置く必要がある。従業員がキャリアと人生の両方を築けると感じられれば、忠誠心と成長につなげることができる。」






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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