かつては超音速で歩き動き、そうでない他者に対する許容性がほとんどないようなビジネスピープルか、やはり自分たち以外の属性の人間に対する関心がほぼなさそうな、有閑マダムみたいな人ぐらいしか見かけず、時々やってくる貧乏なよそ者としてのわれわれにとって、なかなかなじみにくい雰囲気のあった東京都心部。

それだけでなくとも、あの頃の東京には、何かしらの鋭さがあった。
よそ者を寄せつけない冷気のようなもの、無言の階層意識、そして都市の時間感覚に馴染めない者には立ち入ることすら許されないような、閉ざされた感じ。
華やかで洗練されている一方で息苦しく、こちらが小さくなってしまう街だった。

しかし時代は移ろい、東京はまるで様変わりした。
都の潤沢な予算を反映し、新しい建物や施設がどんどん建設されていることだけでなく、自民党の政策による「観光立国」が奏効してか、街ゆく人々の国籍も聞こえてくる言語も多様になり、われわれのようなプネーの田舎から出てきた者にとって、それほど気後れすることなく、大手を振って歩けるようになった。
東京の表面にあったあの冷たさが、いつの間にか、少しずつほどけてきたようにも感じられる。

さらに近年では、東京のあちこちに「ダイバーシティ」や「インクルージョン」を標榜する取り組みが目につくようになり、LGBTQ＋や障がい者など、かつては可視化されにくかった多様な人々も、街の風景の一部になっている。
海外旅行客の集中する観光スポットだけでなく、多国籍なコンビニ店員さんたち、モスクのある町並み、ベジタリアン対応の飲食店、あるいは南アジア食材店など。
こうした風景に溶け込むことで、わたしたち「外から来た者」もまた、この都市の片隅で居場所を得られたような気がしてくる。

だが一方で、それらの「多様性」や「開かれた東京」もまた、都市が消費の論理で再構成されていくプロセスの一部なのではという皮肉も、どこかに感じてしまう。
東京における「多様性の演出」は、観光政策や経済戦略の延長にあるという見方もある。
都市の空間は「インクルーシブ」であるように設計されるが、それは本当に多様な背景を持つ人々の声に耳を傾けた結果なのか否か。

街は着実に変わっており、その変化は歓迎すべき部分もあるが、同時にどこか「均質なグローバル都市」としての東京に、別種の「よそよそしさ」が芽生えているような気もする。
さらにオリンピック開催を契機とした再開発により、野宿者の排除や古い下町の消失も進んだ。
東京都内では、ホームレスの一斉排除や仮設居住者の強制立ち退きが報告されており、都市の「清潔さ」「安全性」の名の下に、可視化されない排除のメカニズムが働いている（参考: 認定NPO法人ビッグイシュー基金報告書 2021年版）。

歩道のバリアフリー化や多言語案内の整備、働き方改革の影響によるスーツ姿の人の減少も、街の表情を柔らかくしているように思える。
だがその柔らかさは、果たして本当の意味での「包摂」なのか。
それとも「まんまと管理された住民」としてうまく区分された結果なのか。
その変化は、真の共生からは遠い構造的現実を提示しているようでもある。

かつての冷たい排他性とは違うが、今は今で「消費される多様性」に取り込まれていく違和感があり、「消費せざる者生きるべからず」と言われているようでもある。

もっとも東京以外にも、日本の大都市という大都市がこのような感じで、どこもかしこも大混雑して辟易してしまうことを除けば、日本的な「右にならえ」を暗黙に強要されるような「空気」を気にせずに過ごせることはありがたい。

東京は変わった。
だがそれは、開かれた都市になったというより、「より洗練された囲い込み」へのシフトかもしれない。