インドで貧困率が大幅低下、雇用拡大も実質所得は減少
Posted on 27 Oct 2026 21:00 in インドあれこれ by Yoko Deshmukh
こうしたデータが必ずしも実態を正確に表わしいるとは限らないところが難しいところです。
インドでは極度の貧困が大幅に減少し、労働市場に参入する人も増えているが、それが必ずしも安定した雇用や所得の増加につながっているわけではない、とする「Business Standard」紙の統計分析コラム「India’s missing link: From poverty to paycheque」を見つけた。
コラムでは、インドが貧困削減において大きな成果を上げる一方、働く人々が十分な収入を得られないという問題を浮き彫りにしている。
世界人口の約6分の1を占め、世界有数の若年人口を抱えるインドは、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、特に目標1の「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」の達成において、重要な役割を担っている。
世界銀行のデータによると、インドで1日3ドル未満で生活する人の割合を示す極度の貧困率は、2011年の27.1%から2022~23年には2.6%へと大幅に低下した。
世界全体の極度の貧困率は2023年時点で10.5%となっており、インドの数値はその約4分の1に相当する。
しかし、貧困から抜け出すことと、安定した収入を得て十分な生活水準を維持することは、必ずしも同じではない。
健康、教育、生活水準など、所得以外の複数の指標を用いて貧困の実態を測る多次元貧困指数(Multidimensional Poverty Index、MPI)でも、インドでは改善が見られる。
全国の多次元貧困率は、2015~16年の24.85%から2019~21年には14.96%に低下した。
ただし、地域間の格差は依然として大きい。
都市部の多次元貧困率が同期間に8.65%から5.27%に低下したのに対し、農村部では32.59%から19.28%となっており、都市部の3倍を超える水準にとどまっている。
こうした格差は、雇用や所得の面でも重要な課題となっている。
インドの定期労働力調査(Periodic Labour Force Survey、PLFS)によると、15歳以上の人口に占める労働力人口の割合を示す労働力率(Labour Force Participation Rate、LFPR)は、2017~18年の49.8%から2023~24年には60.1%へと上昇した。
2025年には59.3%となっている。
特に顕著なのが、女性の労働参加の増加だ。
全国の女性の労働力率は、2017~18年の23.3%から2023~24年には41.7%へと上昇し、2025年には40.0%となった。
農村部の女性に限ると、同期間に24.6%から47.6%へと大幅に上昇し、2025年には45.9%となっている。
一方、都市部の女性の労働力率は、2017~18年の20.4%から2025年には27.1%となっており、農村部と比較して低い水準にとどまっている。
失業率も全体として低下している。
全国の男性の失業率は2017~18年の6.1%から2025年には3.3%に、女性は5.6%から3.1%に低下した。
しかし、労働参加の拡大や失業率の低下が、必ずしも安定した雇用の増加を意味するわけではない。
実際、女性の就業形態には大きな変化が生じている。
2017~18年には、働く女性の21.1%が定期的な給与・賃金を得る雇用労働者だったが、2025年には16.2%へと低下した。
一方、自営業者に分類される女性の割合は、同期間に51.9%から67.2%へと大幅に上昇している。
男性の場合、定期的な給与・賃金を得る雇用労働者の割合は21.4%から24.3%へと上昇し、自営業者の割合も52.3%から54.1%へと増加した。
ここで注意が必要なのは、インドの労働統計における「自営業者(Self-employed)」の定義である。
Business Standard紙が引用した国際NGOオックスファム(Oxfam)の報告書によると、この区分には、自ら店舗や事業を経営する人だけでなく、家族経営の農場などで無給労働に従事する人も含まれる。
つまり、自営業者の増加は、必ずしも起業の活発化や経済的自立の進展を示しているわけではない。
特に農村部では、女性が家族経営の農業や事業に従事することで、統計上は就業者として数えられていても、本人が独立した収入を得ているとは限らない。
さらに深刻なのが、働く人々の実質所得の減少である。
経済調査(Economic Survey)のデータによると、2017~18年から2023~24年にかけて、定期的な給与・賃金を得る男性雇用労働者の実質平均月収は6.3%減少し、女性では12.47%減少した。
自営業者では減少幅がさらに大きく、男性で9.3%、女性では32.15%に達した。
一方、日雇い労働者の実質所得は、男性で19.71%、女性で24.12%増加している。
ただし、日雇い労働者については1日当たりの所得を比較した数値であり、月間の就業日数や雇用の安定性まで示すものではない。
このため、日雇い労働者の実質賃金が上昇したからといって、年間を通じた生活の安定が改善したとまでは言い切れない。
特に注目されるのは、自営業に従事する女性の実質所得が、約6年間で3割以上も減少している点だ。
女性の労働参加が大幅に拡大する一方、定期的な給与を得る雇用の割合は減少し、自営業者の割合が増加している。
しかも、その自営業者の実質所得は大きく落ち込んでいる。
こうした統計は、単に労働市場に参加する人が増えただけでは、生活水準の向上につながらないという問題を示している。
インドは、極度の貧困削減という点では大きな成果を上げてきた。
しかし、貧困ラインを上回る所得を得られるようになることと、安定した仕事に就き、十分な収入を確保して暮らせるようになることとの間には、依然として大きな隔たりがある。
特に、女性の労働参加率が上昇しているにもかかわらず、定期的な給与を得る雇用の割合が減少し、自営業者の実質所得も低下しているという現状は、労働市場の改善を失業率や就業者数だけで判断することの難しさを物語っている。
働く人が増えても、その仕事が無給の家族労働だったり、十分な収入を得られない自営業だったりするのであれば、経済的な自立や生活の安定につながるとは限らない。
インドの経済成長を考えるうえでは、雇用の量だけでなく、仕事の質や所得の実態にも目を向ける必要がある。

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Yoko Deshmukh
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インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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