マハーラーシュトラ州でアウラングゼーブ帝の墓をめぐる抗議激化、ドローン禁止区域に指定

 

Posted on 19 Mar 2025 21:00 in インドの政治 by Yoko Deshmukh

歴史の積み重ねで現在があるのに。写真はアウランガーバード郊外にある、同帝の息子シャー・ジャハーンが建てた「ミニ・タージマハル」とも称される「ビービー・カ・マクバラー」です。



マハーラーシュトラ州チャトラパティ・サンバジナガル県クルタバードに(Khultabad)ある、17世紀ムガール帝国時代の統治者アウラングゼーブ帝の眠る墓所について、ヒンドゥー至上主義者らを中心とした過激派による撤去を求める暴動が起きており、当局は「治安維持」を理由に、墓所周辺を「ドローン禁止」区域に指定したと19日、発表した。

Aurangzeb’s tomb in Chhatrapati Sambhajinagar turns ‘no-drone zone’ as emotions run high

公安ではこの件に関し、ソーシャルメディア上で「不快な感情をあおる」投稿を追跡し、削除するよう努めている。
これまでに500件を超えるオンライン投稿が削除されたとしている。

州全域で、同県庁から約25キロ離れたクルタバードにあるアウラングゼーブの墓所の撤去を求めるデモが発生、17日にはナーグプルで暴動にまで発展しているほか、主に極右ヒンドゥー教徒の政治家の多くが、この呼びかけに同調している。

そこで県公安がこの地域を「ドローン禁止」区域に指定、治安維持のため州予備警察部隊とその他50人の人員を周辺に配備したと発表した。

同墓所周辺は、インド考古学調査局(Archaeological Survey of India、ASI)が指定する保護区域で、18日に県公安は「信ぴょう性のない話をデマとして拡大してはならない。この件に関する情報があれば行政や警察に連絡して欲しい」と呼びかけた。

一方、チャトラパティ・サンバジナガル県では、10名の警察職員および公務員からなるチームが24時間体制でソーシャルメディア上の挑発的な投稿を追跡し、削除している。
公安によれば、これまでにさまざまなソーシャルメディアプラットフォームから506件の投稿を削除し、80人以上の個人が扇動的なコンテンツを投稿しているとしており、「今後は、不快な投稿をした者は犯罪者として記録する」と警告した。

Tomb of Aurangzeb - Wikipedia

デヴェンドラ・ファドナヴィス(Devendra Fadnavis)州首相すら、「アウラングゼーブの思想を称賛する者は厳重な法的措置に直面する」と述べている。

Why Can't Maharashtra Govt Remove Aurangzeb Tomb? ASI Protected Monuments Explained

17日、バジュラング・ダル(Bajrang Dal)やヴィシュワ・ヒンドゥー・パリシャド(Vishwa Hindu Parishad、VHP)などのヒンドゥー至上主義過激派団体が、プネー、コーラプール、ナシック、マレガオン、ナーグプルなど、州内各県で抗議活動を行った。
こうした団体が、コーラプールでは、アウラングゼーブの墓のレプリカを破壊、プネーでは「Jai Shri Ram」とヒンドゥー神を称えるスローガンを掲げてデモを行った。

アウラングゼーブ論争は、サマジワディ(Samajwadi)党(イスラーム教徒を含む、被差別層の人々を代表する政党)の議員アブ・アズミ(Abu Azmi)氏が、同帝の功績を称賛したことで爆発した。
3月7日、ムガール帝国に反旗を翻したマラーター建国者として地域の歴史的英雄となっているチャトラパティ・シヴァージー(Chhatrapati Shivaji)の子孫であると称する、サタラ(Satara)県選出の議員でもあるウダヤンラージェ・ボサレ(Udayanraje Bhosale)氏がアウラングゼーブの墓所の破壊を要求、事態はエスカレートし、抗議者らが墓所の撤去を要求し始めた。

ASIによれば、アウラングゼーブの墓は1958年施行の「古代遺跡・遺物及び遺跡地域保存法(Ancient Monuments and Archaeological Sites and Remains Act)」に基づき保護されており、歴史的価値を有する重要な文化財と位置づけられている。
また、歴史家の間ではアウラングゼーブ帝の評価をめぐり見解が分かれている。
たとえば、オーデリー・トラシュケ(Audrey Truschke)氏など、一部の専門家はアウラングゼーブの宗教政策は単純な「ヒンドゥー迫害」ではなく、政治的事情や当時の行政手法を踏まえた統治政策であったと指摘している。

一方で、寺院破壊やジズヤ税(イスラーム政権により非イスラーム教徒に課された人頭税、参照: 世界史の窓)の復活など、ヒンドゥー教を含む異教徒に対して厳しい措置をとったとする研究も存在し、評価は一様ではない。

そうした中、現地の一部住民や専門家からは、「文化的・歴史的遺産としての価値を尊重しつつ、地域社会の平和や調和をどのように維持するか」という点が課題として挙げられている。
歴史的遺構の破壊や撤去は、当該地域の観光資源や学術研究への悪影響につながる可能性があるため、慎重な対応が求められるとの声もある。
さらに、専門家やメディアは、「過去の人物や遺構に対する現代的な評価が一様でないのは当然であり、当時の歴史背景や複合的要因を踏まえることが必要だ」と指摘している。

参考文献:
Archaeological Survey of India, List of Ancient Monuments and Archaeological Sites and Remains.
Audrey Truschke, Aurangzeb: The Life and Legacy of India's Most Controversial King, Stanford University Press, 2017.
Satish Chandra, History of Medieval India, Orient Blackswan, 2007.
The Indian Express, “Aurangzeb’s legacy sparks debate in Maharashtra” (記事例・URLは参考)
ASI公式ウェブサイト、またはUNESCOや現地紙などでの観光業への影響に関する報道。
The HinduやTimes of Indiaなどの社説・オピニオン欄(複数紙で言及)。






About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



Share it with


User Comments

Leave a Comment..

Name * Email Id * Comment *