ネットスーパー「Big Basket」で食料品を眺めていたら、なんとも珍妙なアイテムに目が釘付けになった。
その名も「マハー・クンブメーラーの聖水(らしきもの)」。
売り文句いわく、あの神聖なるガンガー、ヤムナー、そして幻のサーラスヴァティー川が合流するサンガムの水を、ペットボトルに詰めているとのこと。

しかもその値段に注目だ。
通常価格はとんでもなく高かったらしいが、現在は8割引で1本(100ミリリットル)79ルピー。
それでも若干高い(ペットボトル入り飲料水なら500ミリリットル入りMRP10ルピー)と思わずにいられないが、ここだけ聞くと「あの有名なお清めウォーターが在庫処分セールに」とちょっと哀れになってくる。
なにしろ「神聖」を売りにしているものを叩き売りするなんて、神々から苦情が来ないのだろうか。
さて、このペットボトルの使用目的は飲料ではなく、ヒンドゥー教のプージャ(お祈り)のためだそうだ。
しかしプージャの最中に一口二口すすっちゃってるのは、よく見る光景である。
だとすると気になるのは衛生面だ。
ガンガーのほとりで清められた水…とはいえ、何しろ複数の河川が合流し、いろんなモノが流れ込むポイントで汲んだ水(という触れ込み)。
そのまま飲んで本当に大丈夫なのだろうか。
「まあ気分は清浄だからOK」という精神論で乗り切る手もあるが、実際に乗り切れるかどうかは各自の胃腸との相談によるだろう。
もう一つ気になるのは「これ、本当にサンガムから汲んだ水なのか」という点だ。
なんでも取水や包装はバンガロールの会社がやっているそうだが、この距離感はなかなか感慨深い。
サンガムは北インドで行われるマハー・クンブメーラーの地。
バンガロールは南のIT都市。
なるほど、現地から直送かと思いきや、「バンガロール工場製(お気持ち)サンガム水」みたいな響きにならなくもない。
途中で誰かが、「そうだ、うちの近所の湧き水をちょちょっと入れといても、誰にもバレないよ」と思わなかったことを祈るばかりである。

とはいえ、神聖なる儀式で使うものだ。
疑いだしたらキリがないのは分かる。
プージャを行う方々からすれば、「一応『聖水』って書いてあるんだから、これで問題ない」と断言し、それで毎日がハッピーなら、ある意味それでいいのかもしれない。
そもそもインド的には「気持ちが大事」という精神が国の底力を支えているフシもある。
仮にこの聖水でご利益が得られるなら、ディスカウント中にまとめ買いして、一生分ストックしとく人が出てきてもおかしくない。
「就職試験の前に一口」「テスト勉強の合間に一口」「上司に明日プレゼンするんだ、よし一口!」と、気分転換にもってこい…
待てよ、「神聖なものをそんなにガブ飲みするのは不謹慎!」という声が飛んでくるかもしれない。
そもそもこの商品だってプージャ用なのだから、決してゴクゴク飲むことを想定していないだろう。
ともかく、バンガロール発の「本当に」サンガムから汲まれた(とされる)ペットボトル入りの聖水が、80%引きで「Big Basket」で売りさばかれている。
シュールな光景ではある。
新手の水ビジネスと聖なる儀式が織りなすカオス。
冷静に考えればツッコミどころ満載だが、80%オフだろうがバンガロール産だろうが、信じる者は救われるのかもしれない。