本日、ツイッターを眺めていたら、@AboutIndia さんのアカウントでヨダレの出そうなチキンカレーをはじめ、野趣あふれる調理を青空の下、ルンギ姿の男性が豪快に作る動画がユーチューブで大ヒットしていることと、一躍ユーチューバーとなったその制作者らの物語を紹介する「New Yorker」の記事がシェアされていた。
The Indian Filmmaker Who Made His Dad’s Village Cooking a YouTube Sensation - New Yorker
まずは大量(100本)の鶏もも肉を、人の好さそうなタミル親父が豪快に調理する、15分ぐらいの動画を観て欲しい。
楽しいだけでなく、なんとなく調理法も学べてしまうので、何度も視聴してしまいたくなるだろう。
それにしても使っているターメリックの量が半端ないし、背後でギャン鳴きする声だけの犬も気になるし、ツッコミどころが満載だ。
「New Yorker」によれば、この動画、「KING of CHICKEN LEGS / Using 100 Chicken Legs / Prepared by my Daddy」は、ユーチューブで「親父さんが住むタミル・ナードゥ州農村部、テーニ県の人口のおよそ16倍以上」に相当する2,000万回にも迫る再生回数となっている。
撮影したのは、調理したジャイムク・ゴピナート(Jaymukh Gopinath)さんの息子でアマチュア映画監督のアルムガム・ゴピナート(Arumugam Gopinath)さん。
以下、「New Yorker」に記載された記事を要約する。
26歳のアルムガムさんはチェンナイでタミル映画のアシスタントディレクターとして働いていたが、賃金が安すぎて生活が苦しかった。
そこで2016年に生まれ育った村に戻り、「ギャラを支払う必要がないから」という理由だけで、父親の調理風景を撮影し始めた。
しかし、まさかそれをきっかけに、父親がユーチューバーになるとは思いも寄らなかったという。
62歳のジャイムクさんは、かつて訪問販売員として働きながら、出張先でも自分の好きなものを食べたいと、料理を覚えた。
妻のセルヴィ(Selvi)さんと結婚してから、チェンナイ近郊のチェンガルパットゥ(Chengalpattu)という町に居を構えたが、近所の人からその料理、特にビルヤーニーの腕前を賞賛され、兼ねてからダバ(Dhaba:簡易食堂)を始めるように勧められていたほどだ。
アルムガムさんの子供時代は、そんな父親自慢の蟹料理などを始めとする、数々のおいしい食事を堪能した思い出で満ちあふれているという。
そのジャイムクさんも自身の父親が料理上手で、そうした記憶を辿ってしばしば屋外で食事を作り、家族や親せき、来客に振舞ったりした。
アルムガムさんによれば父子の最初の動画は2016年7月24日に投稿した蟹料理の調理風景を撮影したもので、数日経っても15回ほどしか再生されなかったので、友達にシェアしてようやく観てもらえる状態だった。
しかしその後、子羊の頭の煮込みや、ファストフード風バーガーまで、さまざまな料理を父親が作る様子をせっせと撮影してはアップロードする努力を続けていったところ、わずか2年間で700万ルピーもの広告収入を稼ぐ人気ユーチューバーになったのだ。
父子のチャンネル、「Village Food Factory」が他の料理動画と一線を画するのは、作っている食事の量に圧倒されることもさることながら、開放的な戸外の空間で、簡易かまどにくべる木の枝や木材の確保から、ココナッツからオイルを採る様子、大量の食材の下準備も含めた工程などを、ありのままで撮影していること。
また、不安定なカメラワーク、唐突なカット、時には風の音にかき消される解説など、完璧な編集がされていない素人感が、かえってじわじわくる。
できあがった食事をおいしそうに演出するような編集も、ほとんど施されていない。
それでも、ユーチューブのコメント欄には、世界中のファンたちからの賞賛があふれ、うち6割以上は海外の視聴者によるものだという。
中には「ジャイムクさんのサインが欲しい」というカナダ人の女性もいる。
なお、作った大量の料理は、近隣に住む恵まれない人々をはじめ、大人数でおいしく食べているようだ。
現在、「Village Food Factory」は3~4日おきに1本の動画をリリースしており、家族総出のプロジェクトになっている。
アルムガムさんの母親と妻のプラガティー(Pragathi)さんは食材を準備し、弟のマニカンダン(Manikandan)さんは料理を学ぶという名目でアシスタントを務めている。
当然、家族の生活もガラリと変わった。
かつては当座預金口座の開設に最低限必要な500ルピーの調達にも難儀した一家は、今や1700平方フィート(およそ48坪)の自宅、自家用車、大画面テレビを購入できるまでになったと、「New Yorker」はまとめている。
なお、マトンビルヤーニーの調理動画、「Traditional Mutton Biryani Recipe」も、ダディがいきなり歌い出したりして目が離せず、おもしろかった。
動画を堪能してから、「New Yorker」のストーリーを読むと、つくづく好きなことに情熱を込めて取り組むことによる計り知れない可能性を実感する。
ちなみに、「New Yorker」の元記事をシェアした際にたまたまツイッター上で会話した、あるファンの方は、「衛生的でないなどの批判をする人も多い」と言っていたが、わたしにしてみれば非衛生的な要素はまったく見受けられなかった。