インドで選挙管理委員長の辞任を求める抗議活動が拡大、モーディー政権の対応にも批判が集まっている。
わたしは実のところ、数日前まで何が起きているのか、正確なところは、よく分かっていなかった。
しかし、独立系ジャーナリストRavish Kumar氏によるライブ解説動画と、本日デリーで開催されたゴキブリ人民党(Cockroach Janta Party、CJP)による記者会見を視聴して、「世界最大」とされるインドの民主主義がいま、大きな転換期にあることを理解した。
Ravish Kumar氏らによる10月10日のライブ配信 - YouTube
CJP関係者による記者会見 - YouTube
インドで、選挙人名簿の大規模な改訂を巡り、インド選挙管理委員会(Election Commission of India、ECI)のGyanesh Kumar委員長の辞任を求める抗議活動が拡大している。
10日には、若者を中心とする運動体CJPが首都デリーのJantar Mantarで大規模な抗議集会を計画したが、警察が周辺を封鎖し、参加を試みた2,000人以上を拘束した。
メトロ駅の多数が閉鎖され、一部地域ではインターネット通信も遮断された。
抗議活動の主催者や野党関係者だけでなく、現場を取材していたジャーナリストも拘束された。
抗議活動は11日も続き、警察はさらに数百人を拘束した。
一方、10日に拘束されたCJP創設者Abhijeet Dipke氏ら3人は、裁判所の判断を受けて11日に釈放された。
今回の抗議活動の最大の争点は、選挙管理委員会が2025年6月から進めてきた、選挙人名簿の特別集中的改訂(Special Intensive Revision、SIR)である。
「The Indian Express」の調査報道によると、SIRにより、インドの30州・連邦直轄領で計約1億3,000万件の有権者登録が暫定名簿から除外された。
委員会は、転居者や死亡者、所在不明者などの登録を整理するための正当な手続きだと説明している。
しかし野党や市民団体は、投票資格のある人まで不当に除外され、与党インド人民党(BJP)に有利な選挙結果につながった疑いがあると訴えている。
さらに9月23日、「The Indian Express」は、選挙管理委員3人のうち、Sukhbir Singh Sandhu氏とVivek Joshi氏の2人が、過去10カ月間に少なくとも14回、SIRに関連する手続きについて文書で異議を唱えていたと報じた。
異議の対象には、選挙人名簿への登録・削除手続きや、有権者データベースの管理権限などが含まれていた。
これに対し、委員会は異なる意見が出ること自体は意思決定過程の一部だと説明し、決定は全会一致で行われたと主張している。
また、登録削除を申し立てる「Form 7」の大量提出も問題となった。
委員会は10月9日、1人が提出できる申立書の件数を、名簿改訂の異議申し立て期間中は最大10件に制限する新たな措置を導入した。
抗議活動を主導するCJPは、若者の失業問題を巡る発言への風刺から生まれた運動だ。
CJPはすでに7月、試験問題漏えい問題などを巡る抗議活動にも関与しており、その後、当時の教育相Dharmendra Pradhan氏が辞任した。
今回は選挙の公正性を争点とし、選挙管理委員長の辞任を求める運動を全国規模で展開している。
10日の抗議活動には、CJP関係者のほか、学生団体、市民活動家、弁護士、野党関係者らが参加した。
ジャーナリストRavish Kumar氏らによるライブ配信では、警察の厳重な警備によってJantar Mantarに近づけなくなった参加者が、Delhi HaatやSafdarjung周辺などに集まり、各地で抗議を続ける様子が紹介されている。
また、社会活動家Yogendra Yadav氏、弁護士Prashant Bhushan氏、学生運動家Neha Bora氏らの活動や拘束についても詳しく伝えている。
反発は野党にも広がり、Rahul Gandhi氏*やPriyanka Gandhi氏*らが警察の対応を批判した。
Mamata Banerjee氏*、Arvind Kejriwal氏*、Pinarayi Vijayan氏*らも一時拘束された。
デモ参加者に対する警察の対応だけでなく、取材活動への制約も問題視されている。
Ravish Kumar氏らの配信では、独立系ジャーナリストやデジタルメディアの記者が相次いで拘束され、取材場所への立ち入りや映像の送信を妨げられたとの報告が紹介された。
Reutersも、自社の記者を含む複数の報道関係者が一時拘束されたことを報じている。
また、11日のCJP関係者による記者会見では、警察が参加者の携帯電話を押収した際の手続きや、弁護士との面会を巡って問題があったと訴えている。
さらに、抗議参加者が身を寄せていたGurdwara Bangla Sahibに警察が強制的に立ち入ったと批判している。
ただし、これらの個別の対応については、会見での当事者の主張を超えて、すべての詳細を独立に確認できているわけではない。
11日の記者会見でCJP関係者は、当初は選挙管理委員会に向けられていた抗議が、警察による大規模な規制や拘束を通じて、ナレンドラ・モーディー首相とAmit Shah内相の政治責任を問う運動へと発展したとの見方を示した。
一方、BJPは選挙人名簿の改訂について、重複登録や不適格な登録を整理するために必要な手続きだと擁護している。
また、野党が選挙での敗北を政治的な抗議運動に利用していると反論している。
政府側は集会への規制について、公共の秩序を維持するための合理的な制約であるとの立場を示している。
これに対し、国連人権高等弁務官事務所は、大規模な拘束に懸念を表明し、平和的な集会の権利を尊重するようインド当局に求めた。
UN human rights body expresses concern over Delhi detentions, urges immediate release - The Hindu
インド政府側は、国内問題への不当な干渉だと反発している。
11日までに、CJP指導者のAbhijeet Dipke氏、Saurav Das氏、Ashutosh Ranka氏は釈放されたが、同日もデリー各地では抗議活動が続き、参加者の拘束が報じられた。
CJP側は今後も抗議を続ける姿勢を示している。
今回の動きで争点となっているのは、選挙人名簿の改訂手続きの正当性に加え、選挙管理委員会の独立性、政府に異議を唱える自由、報道の自由、警察権限の行使といった、インドの民主的制度の根幹に関わる問題である。
世界最大の人口を抱えるインドは、日常生活からビジネス、政治に至るまで、あまりにも多くの問題が複雑に絡み合っており、一筋縄にはいかない。
かくいうわたしも、絶望や失望の連続で、時にはなぜ、この国を第2の故郷として選んだのだろうと、心底疑問に思ってしまうことがある。
しかし、若い世代を中心に、この国の未来を案じ、行動する人々の姿を見て、誇りを取り戻している。
インドがこれから、どのような方向へ進むのか、いち住民として見届けたい。
*Rahul Gandhi氏: インド国民会議(Congress)の指導者で、下院の野党院内総務。
*Priyanka Gandhi氏: インド国民会議所属の下院議員。ケーララ州Wayanad選挙区選出で、Rahul Gandhi氏の妹。
*Mamata Banerjee氏: 西ベンガル州前首相で、全インド草の根会議派(Trinamool Congress、TMC)の党首。
*Arvind Kejriwal氏: デリー首都圏前首相で、庶民党(Aam Aadmi Party、AAP)の全国代表。
*Pinarayi Vijayan氏: ケーララ州前首相で、現在は同州議会の野党党首。インド共産党(マルクス主義)所属。

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