850ルピーの席で「The Odyssey」を観る
Posted on 28 Sep 2026 21:00 in ASKSiddhiのひとりごと by Yoko Deshmukh
いまどきの映画館は、すごいよ。
ひさしぶりに映画を観たくなり、いま話題の「The Odyssey」を鑑賞した。
きっかけは、松村一男氏、沖田瑞穂氏による共著『「オデュッセイア」入門』を読んだことだった。
ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』について、その物語や神話的背景をひもとく一冊なのだが、インドとの意外な縁も示唆する内容があまりにもおもしろく、読み進めるうちに、いてもたってもいられなくなった。
たまたま近所のモール「KOPA」にあるシアター「PVR Directors Cut」で「The Odyssey」を上映していた。
それならば、と何も考えずにチケットを購入しようとしたところ、1シート800~850ルピーというなかなかの料金である。
映画館へ行くこと自体、かなりひさしぶりだったこともあり、「シネマコンプレックスとはいえ、いつのまにこんな高額になったんだろう」と軽いショックを受けた。
とはいえ、800ルピーと850ルピー。
「50ルピーしか違わないから、よいほうの席にしよう」と、ちゃっかり850ルピーのシートをチョイスした。
そして上映当日。
館内に入って、再度びっくりした。
まるでビジネスクラスの機内シートのように、ゆったりとリクライニングできるシートが並んでいる。
各席には、厚みのある合皮で装丁された高級感のあるメニューが置いてある。
機内でCAを呼ぶボタンさながらのコールボタンまで付いており、それを押すとスタッフがやってくる。
席を立つことなく、ポップコーンなどの軽食を注文し、そのまま席まで届けてもらえるシステムになっていた。
こんなことになっているとは知らないわたしは、あらかじめ入り口のカウンターにてカプチーノを注文。
肝心のポップコーンは500ルピーからというバブリー価格に怖じ気づき、断念していた。
座席にはそのほか、ひざ掛け、ペットボトルの水、クッションも備え付けてある。
そして、ホテルの客室のような優雅な香りが空間を満たしている。
なるほど。
これは単に「映画を観るための850ルピー」ではなく、「映画を観ながら数時間、ちょっとぜいたくに過ごすための850ルピー」なのかもしれない。
観客はまばらで、年齢層も高め。
みんな静かだった。
これも、わたしにとってはかなり重要なポイントである。
そして、エンドロールまできっちり観たい派のわたしにはうれしいことに、本編が終わったからといって途中でカットされるようなこともなく、最後まできちんと再生してくれた。
これも高ポイントだった。
ひさしぶりの映画館だったため、「いまの映画館って、こんなことになっているのか」と、映画館そのものを楽しんでしまった。
肝心の作品については、数千年も前から語り継がれてきた壮大な古代叙事詩の登場人物である、堂々たるオデュッセウスをはじめとする英雄たちや神々が、誰もが理解できる現代英語で言葉を交わす似つかわしくなさ。
しかも、「f」ワードまで散見される。
そのギャップにけっこう拍子抜けしつつも、思わず笑いながら鑑賞した。
最後に残ったのは、「オデュッセイア」はあくまで、今も昔も極上のエンターテインメントなのであろう、という感想だった。
そして館内には、現在撮影中の大作「Ramayana」のポスターもあった。
『オデュッセイア』の世界にどっぷり浸かった直後に、今度はインドを代表する大叙事詩『ラーマーヤナ』である。
古代から語り継がれてきた壮大な物語が、現代の映画技術によってどのような映像になるのだろう。
「オデュッセイア」を鑑賞したいま、この作品もぜひ観たくなった。
それにしても、『「オデュッセイア」入門』を読んで映画館へ行き、「The Odyssey」を観たら、今度は「Ramayana」が気になってしまう。
映画館通いの楽しみが思わぬところから復活しそうで、ひそかに喜んでいる。

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Yoko Deshmukh
(日本語 | English)
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。\r\n\r\nASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.
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