プネーで見逃した「パッドマン」、日本全国上映を機に鑑賞

 

Posted on 13 Dec 2018 21:00 in エンターテインメント by Yoko Deshmukh

皮肉なことですが、インド公開時ではなく一時帰国中に鑑賞したことも、日本での公開がもたらす意義などを考え合わせることで、一層大きな感慨に繋がっているように思います。



今年2月にインド全土で公開された時、すごく観たかったのに逃してしまっていた「Pad Man(パッドマン 5億人の女性を救った男)」を、滞在中の福岡で、映画館の水曜日「レディース・デー」割引料金を狙って観てきた。
片田舎の映画館、しかも平日の午後8時からの回にしては、そこそこ観客が入っていた。

インド公開直前に作成したASKSiddhi(アスクスィッディ)記事
アクシャイ・クマール主演「Pad Man」まで秒読み、サニタリーナプキンは免税化か

日本版公式サイト「パッドマン 5億人の女性を救った男」


公式トレイラー

 

このストーリーの幕開けは2001年ごろのインド。
わたしが初めて彼の地を踏んだタイミングとほぼ時を同じくしていたことから、鑑賞中は実体験を含めたこれまでのインドにおけるサニタリーパッドを巡る生活のあれこれを思い出し、いろいろな感情が織り交ざっていた。

わたしがインドに移住したばかりのころ、数カ月間は仕事もなく、限られた収入で今よりもずっと切り詰めた生活をしていたので、必需品でありながらナプキンが他の日用品と比較して異様に高額だったことを、当事者として複雑な心境で飲み込んでいた。
物価に対して釣り合わない価格水準は現在もさほど変わらず、例えば日本で誰もが使用しているような品質のものは輸入品となるのでさらに高い。

ざっと、インドでのサニタリーパッド価格の現状を、わが家が日常的にお世話になっているオンラインスーパー、「Big Basket」で見てみても、特に「Whisper」などの輸入品は依然として非常に高価だ。


Big Basket - Sanitary Pad

※20枚入りで比較するとサイズによるが62ルピーから370ルピーぐらいするものまである。
 

ただし、冒頭のASKSiddhi(アスクスィッディ)過去記事でもお伝えしたように、今年からサニタリーパッドに関しては無税となったので、実質的な出費は減っているが、それでも作中で描かれるように、市販品を手軽に買えない層は現在も多くおり、普及の遅れの主要因であり続けている。

さて、映画の感想だが、すばらしい構成の映画パンフレット(730円)も熟読してしまった今、もはやわたしのような無学、無知識で、ダラダラとインドで生活している者が、いまさら何かをコメントしてもよいものかという遠慮もあるため、純粋な印象のみを列挙することにする。

この作品では、2つの対極的な価値観の女性が、アクシャイ・クマール(Akshay Kumar)さん演じるラクシュミカントを挟んでいる。
妻のガヤトリ(ラーディカー・アープテー [Radhika Apte] さん)と、ビジネスパートナーとなるパリー(ソーナム・カプール [Sonam Kapoor] さん)だ。
端的に言うと、前者は「女性だから拒否する」が、後者は「女性だから受け入れる」。
2人が対面することは決してないが、それぞれが独自の考え方を決して曲げることなく、ラクシュミカントの人生をそれぞれのやり方で大きく揺さぶることになる。

結果としてラクシュミカントは「パッドマン」と呼ばれ、インド最高の国民栄誉賞であるパドマシュリー褒章を受章するまでの偉大なる功績を遂げることになる。
国連での力強い演説シーンは、非常に象徴的でメッセージ性にあふれている。

彼が「真のスーパーヒーロー」となり得たのは、当然ながら最も影響を与えた2人をはじめとする、世の女性たちあってこそなのだが、それはまさに「他人を変えることはできないが、自分を変えることはできる」が結晶となり輝いた瞬間だっただろう。
だからこそ徹底的に自分が信じる道を追及することが、誰にとっても何より大切なことなのだ。

なお、「パッドマン」が受賞したパドマシュリー褒章を、今年は大阪外国語大学名誉教授の溝上富夫(みぞかみ・とみお)先生が受章している。

[2018.7. 2]溝上富夫名誉教授がパドマ・シュリ―(蓮華勲章)を受章

作中に出てきた黄色いブースの公衆電話とか、村のパンチャーヤト会議の様子とか、懐かしかったり興味深かったりしたポイントのほか、アミターブ・バッチャン(Amitabh Bachchan)氏が登場した時には思わず姿勢を正してしまったりとか、個人的なツボはいくつもあった。

また作品を観て、改めてアクシャイ・クマールさんという力強い俳優の、「格好良さ」の代名詞のような何をしていてもサマになる豊かな表情から、しなやかで鍛え上げられた身体の動きまで、すべてに心奪われ、大好きになった。
と言っても、インドに住んでいるくせにあまり映画館に足を運ぶことのないわたしにとって、彼は頻出するテレビCMで嫌と言うほど見かける「バニヤン※おやじ」のイメージぐらいしかなかったことを、いまさら反省している。
※バニヤンとは、インド人男性の多くがシャツの下に着用するタンクトップ風の下着。
 

アクシャイ・クマールさん出演「BIG BOSS」コマーシャル2011年版


2016年版


2018年版


話が逸れてしまったが、最後に「パッドマン」を鑑賞したら、ぜひパンフレットも購入して、読んで欲しいと願う。
「愛する妻のためにサニタリーパッドを作る男」の周囲に浮かび上がる、現代インドの事情を、字幕を担当された松岡環さんをはじめとする第一線の専門家らの寄稿を中心に、より詳しく解説してあり必読だ。



「パッドマン」と同時代を生きる我々がインド社会を紐解く上で役立つ、
専門家による易しくも読み応えあるコラムが充実している。


本物の「パッドマン」、
アルナーチャル・ムルガナンダム(Arunachalam Muruganantham)さんによる
TED講演: どうやって私は生理用ナプキン革命をはじめたか! - TED Talk

※SubtitlesからJapaneseを選ぶと日本語字幕で視聴できます。
 

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About the author

Yoko Deshmukh   (日本語 | English)         
インド・プネ在住歴10年以上の英日・日英フリーランス翻訳者、デシュムク陽子(Yoko Deshmukh)が運営しています。2003年9月30日からインドのプネに住んでいます。

ASKSiddhi is run by Yoko Deshmukh, a native Japanese freelance English - Japanese - English translator who lives in Pune since 30th September 2003.



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