毎年5月の第3土曜日に祝われる「ワールド・ウイスキー・デー(World Whisky Day)」に寄せ、インド産ウイスキーが成熟期に達している、という記事を「The Hindu」に見つけたので、内容を抄訳したい。
World Whisky Day 2026: Experts pick their top Indian single malts
2024年、インド産シングルモルトは初めて輸入モルトウイスキーの販売量を上回った。
同時に、インドの蒸留所は国際的な賞を次々と受賞し、かつて「熱帯地方の珍品」と軽視されていたカテゴリーを大きく押し広げた。
2026年3月には「John Distilleries」のMaster Distiller、Michael D'Souza氏が、ロンドンで開催された「World Whiskies Awards」において「World's Best Master Distiller」に選ばれ、インドのウイスキー業界にとって誇るべき瞬間となった。
「ワールド・ウイスキー・デー」の機会に、愛好家たちに「お気に入りのインド産シングルモルト3選」を尋ねてみた。
Swati Sharma氏は、ムンバイー拠点のウイスキー愛好クラブ「Dramn Club」を通じて、モルトにまつわる固定観念を打ち破ってきた人物である。
同クラブは2019年に設立され、会員数は1万1,000人を超え、これまでにインド各地で400回以上のモルト試飲会を開催してきた。
「女性は軽くて甘く、穏やかなウイスキーしか好まないという思い込みがあります。でも、それは固定観念であり、実証的にも誤りです」と、同氏は語る。
「私が試飲を提供してきた女性たちの中には、飲みやすいモルトを素通りし、むしろ最も力強く、ピート香が強いカスクストレングス※の銘柄を選ぶ人も少なくありませんでした。味覚は個人的なものであり、性別では決まりません」
同氏が挙げるインド産シングルモルトのお気に入りには、「Godawan(01 Rich & Rounded および 02 Fruit & Spice)」が含まれる。
その理由について、「保護活動の物語性です。GodawanはGreat Indian Bustardインドオオノガン※にちなんで名付けられており、売上の一部が絶滅危惧種であるこの鳥の保護活動に寄付されています。また、クラフト的な立ち位置や、丁寧に時間をかけた製法も魅力です。そして重要なのは、そうした背景が、ウイスキーそのものの品質や体験を犠牲にしていない点です」と説明する。
同氏はまた、ゴア州拠点の「Paul John」も高く評価している。
同ブランドは、「熱帯地域のシングルモルトがどのような味わいになり得るか」という可能性を静かに押し広げ続けてきたという。
また、西洋の基準を追いかけるのではなく、変化し続けるインド人の味覚に寄り添う表現を模索している点も特徴だ。
ウイスキーの大胆で濃厚な味わいが、インド料理の複雑な風味ともよく合うという。
同氏はまた、インド産シングルモルト業界が今後さらに力強く成長すると確信している。
背景には、2027〜2030年にかけてアジア市場がモルト市場を主導するとの世界的な潮流がある。
「インドは現在、世界で唯一、プレミアム帯のスピリッツ市場が成長している国です。しかも、その成長は数量だけでなく、カテゴリー、スタイル、cask finishesカスクフィニッシュ※、そして原産地ストーリーにまで広がっています」
世界100以上の蒸留所で2,000種類を超えるウイスキーを試飲してきたコインバトール拠点のウイスキー・アドバイザー、Uday Balaji氏は、「Whisky Ambassador Programme」※の認定トレーナーでもあり、さらにインド唯一の「Executive Bourbon Steward」※資格保持者でもある。
これは、マネージャーやプログラム責任者、チームリーダー向けに、教室講義、実践的なバーボン蒸留体験、官能評価トレーニングなどを行う上級認定資格である。
同氏は次のように語る。
「インドのZ世代は酒を飲まなくなっている、という大きな誤解があります。実際には、この世代はより良い体験や洗練されたストーリーテリングを求めています。シングルモルトは従来、『父親世代の酒』のように見られがちでした。そのため、若い世代に魅力的に感じてもらえるよう、ブランド側が工夫する必要があります。そこにウイスキーカクテルの役割があります。ただし、シングルモルトをカクテルに使うのは非常に高価ですが」
インド産シングルモルトの中で、ストレート※で飲むお気に入り3本について、同氏は次の銘柄を挙げる。
「Amrut Peated Port Pipe」: 免税店限定で販売されているが、深みとスモーキーな個性を備えた名品。
「Paul John Select Cask Classic」: ノンピーテッド※であり、力強い熱帯産シングルモルトの理想形。
「Rampur Asava」: インド初のカベルネ・ソーヴィニヨン樽仕上げ※のモルトであり、ワイン樽特有の渋みを巧みに抑えながら、洗練されつつも節度ある味わいを実現した好例。
Hemanth Rao氏は、モルトウイスキーへの情熱から2011年、バンガロールで「SMAC(Single Malt Amateur Club)」を創設した。
以来、世界各地の8,400人以上の会員に向けて、試飲会やモルト体験イベントを開催している。
同氏が選ぶインド産シングルモルトのトップ3は、シェリー樽由来の個性が強いもの、ピート香の効いたもの、そして「インド産シングルモルトとはこういうもの」という既成概念を継続的に覆してきた銘柄である。
同氏はこう語る。
「DeVans GianChand(ジャンムー拠点の蒸留酒メーカー)には、『Manshaa』というピーテッドウイスキーがあります。6,000〜7,000ルピー帯で、非常にミネラル感とchalkyチョークのような個性を持った1本です」
シェリー感の強いモルト(輸入シェリー樽で熟成されたウイスキー)として、同氏はマハーラーシュトラ州拠点のSouth Seas Distilleriesによる「Crazy Cock Single Malt Whisky Dhua Edition」を挙げる。
この銘柄は、バッチごとの差異が非常に少ない点で際立っているという。
3本目として、「Rampur Barrel Blush」を高く評価している。
これは、アメリカン・バーボン樽で熟成後、オーストラリア産シラーズ樽でフィニッシュした、インド唯一のシングルモルトである。
かつて主流だったブレンデッドスピリッツ中心の世界から、世界市場でも、そしてスパイシーなチキンカレーと並べても存在感を発揮できる、洗練されたインド産シングルモルトの時代へと移行しつつあるのである。
※カスクストレングス: 加水調整をほとんど行わず、樽出しに近いアルコール度数で瓶詰めされたウイスキー。
※インドオオノガン(Great Indian Bustard): インド西部に生息する大型鳥類で、絶滅危惧種に指定されている。
※カスクフィニッシュ: 異なる種類の樽で追加熟成を行い、風味に変化を加える製法。
※Whisky Ambassador Programme: スコッチウイスキーに関する国際認定トレーニングプログラム。
※Executive Bourbon Steward: バーボンに関する高度専門資格。
※ノンピーテッド: ピート(泥炭)による燻香を付けていない製法。
※カベルネ・ソーヴィニヨン樽仕上げ: カベルネ・ソーヴィニヨンワインを熟成した樽で追加熟成を行う製法。

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